2009年9月19日土曜日

八ツ場ダム中止で戸惑う住民、残るのは生活破壊、自然破壊と税金の無駄遣いか







取材のため川原湯に向かう車の中で、群馬県議会の冒頭、大沢知事が「民主党の八ッ場ダム中止を受けて1都4県で協調行動をとる」と発言したことをNHKニュースで聞いた。

 民主党政権でのムダな公共工事見直しで、俄然注目を集めることになった八ッ場ダムだ。
50年以上前に、計画が提案されたとき、地域住民は賛成、反対に分かれて長い闘争の果てに建設が決まった。当時建設反対でありながら、賛成にまわった住民が、今度は中止に反対の立場になった。

 関連する自治体は、次々に中止反対を表明し、東京都知事は万一中止になった場合は負担金の返還を要求すると言明した。
 建設反対を訴えていた市民団体は「ダムの必要性がなくなったので、政治的判断が下された。今後は補償計画を策定すべきだ」と中止を歓迎するコメントを発表した。

 地元住民で結成した「八ッ場ダム推進吾妻住民協議会は、9月14日、「中止は絶対に受け入れ出来ない」とダム早期完成要望書を新政権に送ったという。

 途中で大幅に増額された総事業費4600億円の内訳を見ると、治水で国負担1225億円、自治体負担525億円、利水で自治体負担1460億円で2008年までに3210億円。09年度以降はダム本体工事620億円、生活再建770億円で1390億円になる。
 中止すると、自治体負担分約2000億円の返却と生活再建分770億円に工事中の後始末費用など、計り知れない費用が発生すると思うが、朝日新聞(2009.7.11)によると国土交通省の担当者は還付金の支払いが必要で事業継続より800億円高く付くと試算しているという。

 しかし、続行するとなると、用地買収も遅れ予算の執行状況と工事の進み具合から更なる工事費の増額の心配もあると市民団体が発表している。

 そんな八ッ場ダム、川原湯温泉の現状を見た。

 まず、国道145号のJR吾妻線岩島駅を過ぎた付近で、付け替えJR吾妻線の橋の工事と思われる現場が目に入る。作業音が聞こえるので工事は続行中だ。

 吾妻渓谷の名勝地と言われる滝見橋下流150m付近がダム本体工事の現場だ。前回6月に来たときは、この付近はダム工事に先駆けた仮排水トンネル工事が行なわれ、呑口構造物などが工事中であったが、今は完成し、作業所や関連施設は既に撤去され、法面はモルタル吹きつけが施されていた。ダム本体工事延期(?)での後始末されたのだろう。

 川原湯温泉駅を過ぎ、久しぶりに「やんば館」に寄ってみた。目前にテレビの映像で有名になった湖面2号橋の工事が現れた。県道林岩下線が通る全長590mの橋だ。今も工事の音が聞こえる。工事見直しで有名になったためか、見学者が急に増えたと説明の女性が言う。

 やんば館のある側の山の中腹では、国道145号の付け替え工事が進んでいるが、土木工事は面白い。工事の着手をどの辺からするかは重要な問題であるが、急峻な法面にインクラインを設置し、工事用重機、工事資材などをトンネル工事着手地点まで上げて工事を推進していった。今はその法面もインクラインは撤去され、モルタル吹きつけが施されていた。

 引き返して、川原湯温泉街へ行く。

 共同浴場「玉湯」付近で、道路を掃除していた女性に「中止反対のスローガンを書いたボードなどないんですね」と聞くと、「いろいろ中止反対の運動をやっていますよ」という。

 この玉湯付近の用地買収が遅れているようだ。昔、土地を購入する場合、行政区の名前では登記出来ず、住民の名前を借用したために32人の共同所有になり、その人達の所在なども含め、進んでいないらしい。

 この温泉街付近は、脆い地盤で崩れやすく、落石防止のネットが至る所に張ってあるし、沢が多く防災ダムの工事が実施されているようだ。急峻な山腹を切り開き盛り土し平坦地にする工事もあちこちで実施されている。打越の移転地も盛り土工事で平坦地にされているが,地盤が安定するのは年数がかかる。地滑りも心配だ。

 ダムの天端標高が586mなので、温泉街は全部水没するが、水没を逃れる地点に行ってみた。墓があり、沼津ナンバーの車があったので「墓参りですか」と聞くと「そうです」といい「今度工事が中止になるそうですがどう思いますか」と聞いてきた。この方は、先祖がこの温泉源を見つけ、ここで旅館をやっていたが、今は廃業し信州に住んでいるというこの辺の名士なのだ。新しい移転先に墓地を買うことにして入るとも言う。

 「総予算4600億円のうち、すでに3200億円を使っている。おいそれと中止は出来ないと思うが、早くはっきりさせて欲しい」という。「こんどの連休に前原さんが視察に来ると言っているでしょう」と不安を募らす。私も「ここまでやったら、完成させるべきですよ」と応えた。

 帰りに土産物店に寄った。温泉以外に、この辺では何が名産になるのか聞こうと「この辺の名産は何ですか」と聞くと、「うちの手作り最中です。宅配便で全国に送っているし、予約しないと手に入らない」そうだ。1260円で一箱かった。

 新しい移転先に移る予定だが、「中止でどうなるのか」と心配されている。「50年前は建設に反対し、仕方なく賛成に回ったが今、中止に反対している。妙な事になった」という。

 「中止と言っても延期で、また工事を再開することになるのでは」というと、女性は真顔で「そう言う見方もあります」と応える。そして「こちらに署名してくれませんか」と中止反対の署名簿を差し出されたので、署名した。「この署名運動も始めたばかりですが、もうこんなにしてもらった」と見せてくれた。

 「もう、どうにでもなれ」と言うのが実感だ。

 足湯では、若い女性が足を浸かっていた。近くの旅館で大学のゼミが研修している学生だ。下から2人の男性が上がってきた。「露天風呂はどこですか」と聞くので、「もう少し行った左側の階段を上っていってください」と教えた。

 至る所で工事が進んでいる。吾妻川を挟んで両側の山腹が削られ山肌が露わになり、盛り土で平坦地に造成されている。川には巨大な橋脚が作られている。ダム本体は中止になったが、何一つ完成したモノはない。

 これで中止となると、地域住民の生活と自然環境の巨大な破壊を残したままの最悪の事業で終わってしまう。

 旅館は、移転があるので設備投資を控えてきた。このままだと設備更新も出来ず川原湯温泉は、足湯と露天風呂を残し消滅してしまう可能性がある。

 移転先も1~3区に分かれて造成されているが、今は1区に移転が済んだだけで2,3区は未だ造成中だ。6月に移転先を見たときは、約20軒ほど移転していたが、こんな山の中腹にポツンと残されたままでは、生活が不便だ。

 工事を中断した箇所も法面処理をされるだろうが、地滑りなどの危険はある。

 地域住民、旅館業の人達の生活補償を具体的にどうするのか。多くの課題がある。

 計画段階とか、少し着工した工事であれば中止してもそう問題はないと思うが、八ッ場ダムのように、ここまでやってしまったらムダとは思っても完成させた方が良さそうに思う。

 完成させればさせたで、その維持管理に公務員の職場が増え、税金から多額の維持管理費が支払われるジレンマはある。

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