シリアへの外務省による渡航中止要請、聞き入れられなければパスポート返納命令は、憲法で認める渡航の自由という基本的人権を「公共の福祉」という概念で制限する合理性があるのか。
新潟在住のカメラマンのトルコ→シリアへの取材を目的の「渡航の自由」と生命の安全を優先した外務省の渡航中止、返納命令の是非が議論になっている。フリージャーナリストやカメラマンらは「渡航は自由」で制限は憲法違反と反論するが、大方の学識者は制限は必要で法制度の整備が急がれるという。
今回の「イスラム国」による2邦人、ヨルダンのパイロットの残虐な殺害は世界に大きな衝撃を与えた。政府が努力したという救出作戦もうまく行かず、欧米と比べて情報収集力の未熟さを示したが、総理の「テロに屈しない」という強い姿勢は評価され、読売新聞の世論調査(2015.2.8)では内閣支持率も上がったが、「最終的責任は本人にあるか」との設問に83%が「その通り」と肯定した。
「その通りだ」と私も思うが、如何にせん欧米に比べて「自己責任」の文化がない。人質の事件が起きる度に時の政権のパフォーマンスが優先する。「身代金を払わない」という政権もあれば「人の命は全地球の重さより重い」と身代金を払い解放させる政権もあった。
外務省は今回の返納命令は、非常に危険なシリアへの渡航を回避させる例外的処置とみているが、「渡航の自由」を訴える者にとっては前例になるのを恐れている。
我が国の憲法は22条1項で「居住、移転の自由」、22条2項で「外国へ移住する自由」を規定している(判例でも外国への旅行の自由も含まれるという)。
しかし、この基本的人権も「公共の福祉に反しない限り」という条件が付いている。そこで「公共の福祉とは何か」が問題になるが憲法では具体的な記述はない。具体的には法律で探るしかない。
そこで旅券法第13条1項に「著しく且つ直接に日本国の利益または公安を害する行為を行う恐れのあると認めるに足る相当の理由がある者に対し旅券発注を拒否しうる」と規定されている。
「公共の福祉」とは「日本国の利益または公安」というのだ。だから日本国の利益、公安を害する場合はパスポートの発給は出来ないというのだ。
ところで、新潟のカメラマンのシリア行きが日本国の利益、公安を害するのかと言うことになる。人質、要求される身代金は日本の利益には反するだろう。シリアへ入って「イスラム国」で軍事訓練、教育を受け帰国しテロ行為をやられる恐れがあれば公安にも関係する。
今回の2人の「イスラム国」による人質殺害予告以来現地の対策本部、官邸の右往左往振りを見ると国益を害していることは明らかだ。
戦場を駆け巡り現地の状況をリアルに報道しようとするジャーナリストにとってはパスポートの発給拒否は死活問題かもしれない。「報道の自由」を掲げて反対する気持ちも分かるが政府の「国民の安全を守る責任がある」ことも理解すべきではないか。
欧米では紛争国への渡航も制限していないことを考えると、「自己責任」の文化を築く必要がある。
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