さようなら橋下劇場：政策、実行力で稀有な政治家だが政治手法では疑問も

さようなら橋下劇場、政策、実行力では稀有な政治家に映ったが政治手法には疑問も残る。７年前２００００％ないと言っていた大阪府知事への立候補に始まり、１７日の橋下さんが心血注いだ大阪都構想の住民投票の敗北でやっと橋下劇場に幕が下りた感じだ。

企業が本社機能を東京に移す動きが多く、府知事時代に大阪の経済面での地盤沈下を憂い、大阪府と大阪市の二重行政の無駄を止めて大阪を成長戦略に持っていくために大阪都構想を考えたが、当時の平松大阪市長が言うことを聞かないことに業を煮やし大阪市長選に打って出て平松市長を破り大阪市の改革に力を入れた。

大阪都構想と言い、自ら大阪市長に挑戦した実行力は稀有な政治家との印象を強く持った。

更には、地方政党の大阪維新の会から国政政党の日本維新の会、結いの党と合併し維新の党になり地方から国政へ打って出た。すべてが道州制の導入を目指した動きなのだろう。橋下さんの一挙手一同がメデイアのニュースになった。

府知事が国政政党の党首として国政に参加する是非論も持ちあがった。京都府知事は「毎日が府の仕事でとてもそんな時間などはない」という中で橋下さんは「できる」と言い、私的時間も惜しんで政治にまい進した。

市長時代は市職組におんぶに抱っこだった平松市政を根本から改革すべく市職員と戦う姿はテレビの映像で全国に伝わった。多くの自治体が抱える問題と果敢に挑戦した橋下さんには敬服する。名古屋市長も孤軍奮闘していることからも役人との戦いは大変なのだ。。

でも、政治家として口も軽かった。２０１３年、記者を前に聞かれてもいない「慰安婦問題」で発言したことが日韓の国際的問題に発展し求心力を一気に失うことになり参院選で伸び悩んだ。

橋下さんにしてみれば「本当のことを言って何故悪い」ということになるのだろうが、大方は余分なことを言ったということになる。

メデイアで県知事や市長が話題になる機会は少ない（勿論地方版では話題に上がる）が何故か橋下さんは全国区での顔になっていた。それだけ発言が面白かったのだろう。

今回の大阪都構想の是非を巡った住民投票では争点がはっきりしてきた。先の堺市長選では「堺市がなくなる」「いや堺市はなくならない」の応酬だったが、今回は関西圏の経済成長、府と市の間での二重行政での無駄の排除、住民サービスの動向が有権者の争点になった。

でも考えてみれば、大阪都構想が実現できたとしても大阪の経済成長など簡単にはいかないことは安倍政権の経済政策を見ていても分かる。

二重行政による無駄だって反対派が言っていたが、無駄は二重行政のためではなく政策がまずかったのだという。確かに道一つ隔てて大阪府と大阪市の下水処理場を建設したり、ごみ焼却場の外観をテーマパークのように作ってみたり、交通の便の悪いところに超高層ビルを作った。どこの自治体でも言えることだが税金の無駄遣いは役人の意識の欠如だ。

よくいわれた住民サービスの動向は特別区となると差異が出てくるだろう。高齢者を中心に一番の関心事だが高齢者は反対に回った。

もう二度と大阪都構想は出てこないだろうが、投票した人の半分が大阪都構想に賛成したのだ。この市民の民意に市議会がどう応えるか。市長、市議会とギクシャクしている面もあるだろうが一層の改革が必要だろう。

一方で橋下さんの政治手法には疑問も残る。

橋下さんはテレビの人気番組「行列のできる法律相談所」でも見せたように正当論を吐く人を相手に正反対の異端児的発言で人気を得たが、見ている人には斬新さと面白さを感じたものだ。

また、小泉さんと同じように敵をつくり攻撃する政治手法も今の安倍総理の恐怖政治もメデイアにとっては好都合なネタだろうが民主政治にとっては弊害ではないか。決して長続きのする手法ではない。

また、その時その時の事情で引っついたり離れたりの姿勢は有権者に混乱を植え付けるし、メデイアの憶測を呼ぶ根回しも不信感をあおる。今回の選挙戦でも不利と思えばかく乱戦術に出たが、弁護士活動では通用しても政治の世界では信用を落とすのではないか。

そして「策のしすぎ」はどうしても不信感が募り、政策の是非判断を狂わす。今回の住民投票に当たっても不利と分かって相当策をこうしたらしい。

記者会見ではもう政治から退くと言っていたが本心だろうか。政治家として高揚感を味わった経験は忘れられない。おだてられればまた出てくるだろう。

その時は何を政策にし、誰を敵にして政治にチャレンジするのか。「見たくもあるし見たくもない」、そんな感じだ。

政治家なら一度言ったことを破ることなど朝飯前だろうが、ここは一度引退したらどうか。メデイアによると安倍政権が民間大臣として入閣を詮索していると言うが、安倍政権の政策を推進するためよりも安倍政権への人気取りに利用されるだけだ。

橋下さんも自分の価値に早く気づくべきだろう。