2016年1月17日日曜日

スキーツアーバス転落事故に見る:「脱デフレ」は国民の意識改革から

多くの若い大学生、深夜の高齢運転手の死を招いた今回のスキーツアーバス転落事故だが、夜間走行の安価なツアー料金が未だ人気を博していることを考えると国民のデフレ感覚は抜けず「脱デフレは国民の意識改革から」と言うことにならないか。

ツアーバス事故が起きると企画会社、バス運行会社の管理が不十分だった法令違反が浮かび上がってくるが今回も同じことらしい。折角、交代要員がいるにもかかわらず危険を防止できなかったことに問題解決の根深さがあるようだ。更に4500社に及ぶ競合会社があると言うことは供給過剰でツアー料金のダンピングは避けられず「安かろう悪かろう」になってしまう。

今回は死亡事故というあってはならない結果に終わったが、もしうまく行っていたら誰が儲けたことになるのか。うまく行っていれば一番得したのはツアー利用者なのだろう。バス運行会社はバスの購入、維持管理、まともにやっていれば運転手の健康管理など負担が大きい。それほど儲かる仕事ではなかろう。運転手は制約条件を守りながら安い賃金で働かなければならない。決して楽な仕事ではない。

ではツアー企画会社が儲かっているのか。「売りが格安」と言うことになると薄利多売と言うことになるのか。今回ツアー会社の社長が「今後、一生を通じて償いをする」と発言していたが、失敗すれば大きな負債を背負ことになる。でも、事件が片づけば再開するのだろう。

それにしても若者達はどうして格安ツアーバスを選んだのか。

深夜バスはJRの半値以下と言うことで利用者も多い。でもそれは安全が確保されてのことだ。名のある会社はそれなりに安全面でも考慮し、それなりに料金も高くなる。一方格安では経営者がどんな人か、安全面は保障されているのかなど不明な面も多い。

それでもJRや大手旅行社を避けて格安旅行をねらうのだ。

14日の参院予算委員会で民主党の石橋さんから「デフレ脱却の評価」を問われ、安倍総理は「デフレではない」と言えるところまで来たのは事実だが絶対に戻らないというところまでは来ていない」と応えていたが、このツアー客を見るとまだまだデフレ感覚で「脱デフレには国民の意識改革が必要」と思えないか。

アベノミクスで円安、株高を招き企業も高収益を出すが家計への再分配はままならず、トリクルダウンなど期待薄なのだ。

政府、日銀は脱デフレ、2%消費者物価安定目標を掲げ日本経済を再生しようとしているが、ここしばらく「賃上げ」を口酸っぱく主張し経済界に訴えている。企業の儲けを家計に再分配し、消費を増やす作戦のようだが企業は載ってこない。

トヨタは今年の賃上げを3000円とし、昨年の半分だという。自動車産業は部品納入など裾野の広い産業で、トヨタだけが高額の賃上げをすることは系列企業のバランスを崩すことになると言うのが新聞に出た理由らしい。

しかし、トヨタは間違っているのではないか。昨年は企業業績も上がっているので価格ダウンの交渉を再開したと言うが、あれほどの収益を上げながらまだコストカットをするのか。逆に部品納入の価格を上げることで系列会社に経営上の余裕が出来、従業員に還元することが出来るのではないか。それがトリクルダウンではないのか。

更に、安倍総理は海外の企業を国内に呼び寄せようとしている。法人税下げもその政策の一つだが、トヨタは自動運転技術開発でシリコンバレーに200億円の投資をするという。円安効果で海外生産から国内生産に回帰する企業も出て来たが、生き残りをかけたM&A、現地生産の海外投資などが絶えない。

国の政策と企業行動にチグハグさが目立たないか。いいとこ取りの企業活動では脱デフレは無理だ。

最近スーパーも変わってきたと家内が言う。家内は毎日、娘の家族分を入れて7人分の食事を用意しているのでスーパーの開店早々、目玉の安売りを狙って買い物をしている。「今日はこんな物が手に入った」と冷蔵庫の前で目を輝かせる姿をたびたび見たが、そのスーパーも目玉の安売りをしなくなったというのだ。

安売りは必ず誰かが損をしている場合が多い。流通業者や販売業者はある程度強い立場にあるから、恐らく農業などの生産者が泣いているのだろう。

どうしてそれぞれが適正な儲けを出しての商品価格の決定が出来ないのか。

読売新聞(2016.1.17)を見ると、今回のツアーでバス代金が約19万円だったそうだが、国の決めた基準では約27万円になるそうだ。ツアー企画会社から客が少ないので「安くしろ」との要望があったそうだ。更に悪いことにバス会社は運行前の点検をやっていなかったという。そんな事は知らない多くの若者が利用したのだ。

東京・大田区は町工場が多い。最近は仕事も増えたと言うが加工賃は相変わらず安いようだ。忙しくなったのは良いが儲けはないという。ひどい時は従業員を首にし社長が一人でFAXによる一個の注文に応えていたそうだ。断ればもう注文は来ないという恐怖があった。

物価が上がることは生活に響くのは確かだが、適正な商行為による経済の好循環ができないものか。

「脱デフレ」は国民一人一人の意識改革が必要だ。



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