国際政治の舞台で、多国間から二国間交渉へ振り回し、かき回す張本人はトランプ大統領だが、本人は悪いこととは想っていない。オバマ前政権が築いた協調路線もことごとく否定し、二国間交渉で国際協調路線が保てるのか。
フランスで始まったG7の議長であるマクロン大統領は米国と欧州勢の議論すべき政策課題の溝の深さを悟り、早々と「首脳宣言なし」を宣言した。合意文書をまとめるのに心血を注ぐよりもお互いに二国間で議論する時間を持ったほうが良いと判断したようだ。
正論だ。先のG7では1:6でアメリカの孤立が目立った。折角の宣言も会議後、トランプ大統領がツイッターで反論する結果になり議長国としては後味の悪い結果になった。
そこでトランプ大統領とは特別の友好関係(?)にある安倍総理に仲介役を期待する向きもあるが、マクロン大統領は期待していないようだ。
ところで、トランプ大統領の登場で、掲げる「アメリカ第一」「保護主義」は今まで世界経済を牽引してきたアメリカ流グローバリゼーションにアメリカ自身が見直しの転機を与えたのではないか。
アメリカの巨大企業は世界に進出、大きな利益をむさぼったが一方で、格差拡大、貿易のアンバランス、そして今覇権拡大を争う中国と二極化が叫ばれる。
日本経済新聞(2019.8.25)によると「グローバル化はきしんできた」という。直接投資残高は18年度の31兆円だったが前年比4%減だという。その要因に米中貿易摩擦が挙げられているのだ。
米国の経済界も従来の「株式第一主義」から従業員、地域社会への貢献を詠いだした。来年の大統領選に向け、民主党の左派グループが勢力を伸ばしてきたことへの警戒感かららしい。
トランプ大統領はアメリカ国内経済は好調でも今まで政策から疎外されていた国民、失業者、衰退する産業城下町を支援、復興するために、グローバリゼーションの後戻りの「保護主義」を煽る。
中国や日本の輸出産業のためにアメリカの国民、産業は犠牲になっている。貿易のアンバランスはけしからんというのだ。中国に対しては輸入品の関税かけない合戦で米中貿易摩擦を起こし、二国間交渉でけん制し相手側の譲歩を引き出そうとしている。
習首席も黙っていない。関税には関税で対抗する。落としどころが分からないのだ。逆に日米貿易交渉で成果を出そうとする。安倍総理はデイールでは負かすことができると見るのだ。茂木担当相は「方向性を共有」とか「大筋合意」など国益を守っているかのようだが、そのうちにアメリカから本音が漏れてくる。
閣僚、高官会談で詰めてもトランプ大統領が満足しなければアウトなのだ。
米中貿易摩擦で世界経済減速の観測が流れるとトランプ大統領はFRBに「利下げ」を要求する。パウエル議長に「長期間1%」を要求するが、今の世界経済での景気下降リスクを「利下げ」で対応する状況にはない。
トランプ外交を見直すべきなのだ。
政治面ではG7が1:6(ジョンソン英首相が加わると2:5か)、G20が1:19といわれているように米国と他国の溝は深まるばかりだ。最近は「ロシアを戻してG8にしろ」というし、新聞報道ではトランプ大統領の本音は「G7に出たくない」ということらしい。G20で十分というのだ。
国連の常任理事国も米:中国、ロシアでの構図で何も決まらない。むしろ中国、ロシアは紛争の当事国になっている。
落としどころの見えない米中貿易摩擦、同盟国に対して軍事費負担増の要求、同盟国へのアメリカの高額兵器の売り込み、イラン核合意からの離脱で制裁強化、イスラエル問題、北朝鮮の非核化、ペルシャ湾の安全のための有志連合、地球温暖化「パリ協定」からの離脱、TPP離脱、移民難民問題、韓国を取り巻く朝鮮半島問題と溝の深まる課題は多い。
トランプ流外交は世界第一位のGDP、軍事力を背景にけん制と相手側の譲歩で優位に立とうとしている。今後も大統領選に向け何を言い出すか分からない。
ただこのまま続けると先進国リーダーとの溝をめがけて中国、ロシアが入り込んでくる。アフリカ諸国など新興国に対する欧米の取り組みの違いに中国が割って入り一帯一路構想のように経済支援を表向きに世界各地に軍事拠点を構築している。
考えてみると、中国が「保護主義」を批判して自由貿易を主張しているが、以前だったら中国が保護主義でアメリカが自由貿易を標榜していたのではないか。時代は変わったものだ。
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