2016年の経済がどうなっているか、経済見通しがメデイアに出るが同じ経済指標がありながらどうして専門家によって予測が違うのか。経済学では予め実験は出来ないし、過去に経験したしたことがないから見方がマチマチになる。
心理学者のフィッリップ・テトロックが20年間、284人の政治、経済学の専門家について調べた結果、専門家がそうでない人より優れている訳ではなく、知識が増えるが予測力は増えず、一流の学術誌に論文が載ったといってもジャーナリストや新聞をよく読んでいる人に較べて突発的な状況を読むことが上手いわけではないという(「科学で勝負の先を読む」ウィリアム・パウンドストーン 青土社 2014.12)。
更に、予測の実情は全体的に貧弱だが、懐疑論があるのは健全と言うことだとも言う(同上)。
又、朝日新聞(2012.10.11)に面白い記事「危機読めない経済学」が掲載されている。2008年11月、ロンドン大経済政治学院の新築開所式に出席したエリザベス女王が周りの経済学者達にリーマン・ブラザーズ破綻による金融危機に関して「どうして、危機が起きることを誰も分からなかったのですか」と聞かれ経済学者達が激しく動揺したという。
その時は十分な説明が出来なかったので、後日、学者や実務家が集まって討論し「誰も全体を見ていなかった」、経済学者は政策を示すエリートだったんだという結論になり女王に手紙を送ったというのだ(同上)。
予測が外れても旧来のモデルに拘って修正せず現実から目を背ける人も多いという。大半の予想は最近の流れの延長線上にあるものから予測するので「当たるも八卦当たらぬも八卦」と言うことか。
ケインズの高弟にあたる著名な経済学者が「私が経済学者になったのは、経済学者に騙されないため」と言ったことを本で読んだことがあるが頷ける。
2016年の日本経済の予想も、期待感を煽り経済を上向けさせたい政府、日銀、各種審議会で政権へYESマンの立場にある人たち、在野の民間エコノミスト、政府の政策に関係ない学者達では見方が違う。
読売新聞(2015.12.23)によると、政府が経済見通しを発表、2016年度GDP成長率名目3.1%、実質1.7%、GDP600兆円を目指すには実質2%、名目3%が必要なために個人消費は今年度1%から2016年には2%、設備投資も今年度2.8%から2016年には4.5%と順調な回復を想定しているが、新聞は「実現不透明」と疑問を呈している。
一方、政府や日銀は経済情勢をどう見ているのか。
安倍内閣の経済の舵取り役の経済財政諮問会議の第20回議事録要旨を見ると、民間議員がアベノミクスの現状をデフレ脱却は前進しているが民需の動きが弱くGDPギャップもマイナス幅の改善が遅れているがGDP600兆円に向け取り組みを本格化する必要があると提言。アベノミクスの成果として税収増7~8兆円と見て1億総活躍社会、財政健全化に活用すべきだという。
安倍総理も総括で、アベノミクスの3本の矢によって日本経済が再び成長を取り戻しデフレ脱却へ後一歩だと言い、戦後最大の600兆円に向け歩みを確固たるものにし、更に経済を強くする。成長と分配の好循環を作るのだという。
ところが日刊ゲンダイ電子版によると、民主党議員が安倍政権になってからのGDPの伸びの情報公開を求めたところ、2.5%で、民主党政権時の5.7%の半分程度だったのだ。これで良くもアベノミクスの成果などと言っていられるかと言うことになる。
ところが日刊ゲンダイ電子版によると、民主党議員が安倍政権になってからのGDPの伸びの情報公開を求めたところ、2.5%で、民主党政権時の5.7%の半分程度だったのだ。これで良くもアベノミクスの成果などと言っていられるかと言うことになる。
アベノミクスの当初の3本の矢は失敗し、新たに新3本の矢を放つことにもなったが評判は良くない。600兆円を目指すには成長率4~5%が必要でここ20年経験したことのない数値なのだ。また冨の再分配を目指し経済界に賃上げを要請しているが、何故か春闘の要求額は低迷している。
又、日銀の「当面の金融政策運営に関して」(日銀 2015.12.18)によると、新興国の減速はあるが輸出は持ち直し、国内需要、設備投資は緩やかな増加基調、雇用は確実に改善、個人消費は底堅く推移、住宅も持ち直している。企業の業績も慎重な動きはあるが総じて良好で物価、消費者物価も前年比0%だが上昇率も全体として上昇している。
そこで、物価は当面0%だが、日本経済の先行きは「緩やかな回復」を続けているとみている。
何かしら良いとこずくめで、日本経済は安泰のようだが本当に大丈夫か。懐疑論もはねのけて、こんな評価であれば何か不健全な気がしてならない。
アベノミクスも正念場を迎え軌道修正が必要になっているし、原油価格の下落は燃料費の下落でメリットになる点も多いが産油国の経済危機は金融危機にもつながる。現在継続中の量的緩和も円安から物価高での生活苦で国民経済への影響は大きい。選挙を控え政権はどう見ているのか。消費税10%も軽減税率で線引きが大揉めだったが、財政健全化、社会保障制度維持の面からも政策が変質してきた感じだ。
1000兆円を超える借金問題に絡み2020年にはPB黒字化を国際公約しているが9兆円をどうするかで四苦八苦している。
又、日銀の量的緩和は財政ファイナンスの傾向になってきたが、既に国債発行残高の30.3%を日銀が保有し日銀の金融政策も限界に来ている。FRBも利上げに踏み切ったが日銀はどういう出口戦略を描いているのか市場や国民に説明がない。政府、日銀共に「打つ手なし」が正直なところだろう。
安倍官邸はメデイアの政権の政策に対するニュースに目を光らせているのだろうが、あらゆる角度から広く議論を起こすべきだ。
「経済学者の予測は最も必要とされるときに、最も正確性を欠くもの」とは世界共通の事実らしい。政府の審議会でも反対意見が見られないところに健全な議論はなく、国民に間違った情報を流す危険がある。
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