ノーベル賞受賞者がよく言う「常識(通説)、教科書を疑え」は、科学の世界ではノーベル賞ものだが、政治経済の面では失敗するかもしれない。大気ニュートリノ振動を発見し今年のノーベル物理学賞を受賞した梶田先生は標準理論を打ち破る物理学の新しい方向を示したが、一方、私たちの生活に大きな影響を与える経済面で政府、日銀は金融政策で非伝統的金融政策を採用し脱デフレを目指すが期待外れの感がある。
ニュートリノ、反ニュートリノは幽霊のような粒子で電荷も持たず、質量もほとんどなく物質を通り抜けると言われ標準理論では「質量はない」と考えられていたが、研究過程で「奇妙な結果」を得、プログラム、実験手法を精査した結果、ニュートリノ振動を確認し「質量がある」という結論に至り物理の新しい扉を開いた。
「それがどうと言うんだ」と凡人には分かりにくいが宇宙の起源に迫る糸口にもなると言う。
今、ビッグバンで宇宙は膨張しているが何時かは反転し収縮に向かうという。小さい粒になるのだ。9日の青い空を見上げるとダークエネルギー75%、ダークマター20%、原子を作っている物質5%、それにわずかな光子とニュートリノからなっている宇宙だがそんなに難しい問題が潜んでいても直接生活には影響ないから実感が湧いてこない。
一方で、私たちの生活に大きな影響がある経済面を見ると今の日銀が実施している異次元の質的・量的緩和は金融政策面では「非伝統的金融政策」で教科書を外れているし、おまけにゼロ金利下ではその効果は期待出来ないと言われている政策だ。
しかし、当初は円高→円安、株安→株高へ基調が替わり、一見効果があったと思われているが、その要因は別にあると指摘する経済学者が多い。
アベノミクスも第一の矢の金融政策だけで第2の矢、第3の矢は評価出来ず、安倍政権は続けて新3本の矢を放ったが、矢なのか的なのかと疑問視されている。
本当のところ「非伝統的手法」と言われる量的緩和の効果はどうなのか。
朝日新聞(2015.12.9)の「危機後の中央銀行 非伝統的手法には想定外の副作用 金融頼みは危うい」と言う記事が目に止まった。金融政策では常識的、教科書的考えだ。
G30評議会議長でJPモルガン・チェース・インターナショナル会長のジェイコブ・フランケルさんへのインタビュー記事だ。
G30が今秋、世界金融危機の教訓と中央銀行の役割に関する報告書をまとめたというが、その報告書は「中央銀行の伝統的原則は、多少の修正はあるにしても、まだ妥当性がある」と言うのだ。
伝統的金融政策は原則としては中央銀行の金利の上げ下げであるが、金融危機で今、各国の中央銀行は量的緩和政策をとっている。欧州は延長を決めたし日本も「物価安定目標2%」へ向け量的緩和を継続しているが、「何かあると躊躇なく対応する」と追加緩和も匂わせる。
余りにも劇的は手法だったが各国中央銀行が右に習えだからG30評議会も否定は出来ないのだ。おまけに日本からは考えの違う(?)黒田さんと白川さんがメンバーだ。
金融政策の狙いは、長期的な物価安定、金融システムの安定、中央銀行の独立性にあるが、政府の財政健全化、構造改革が必要だ。これが無ければ「想定外の結果」になり金利以外の株価、住宅での収益追求になり実体経済と離れたバブル経済になる。
日本はどうか。
財政健全化も構造改革も未だという感じで物価安定はほど遠い。金融システムは一応安定しているようだが中央銀行の独立性が保たれているとは思えない。
「古い教科書は捨てて新しいアプローチを採用しよう」と言うことだったが、うまく行っていないのではないか。でも市場に期待感を持たせたことは評価出来るのではないか。
FRBの利上げについても言及している。成長率は2~2.5%、失業率も5%、インフレは2%に達していないが金利の正常化に向け「利上げできる環境」の整備が出来たと言うことなのだろう。0.25%なんて経済にはほとんど影響がないとも言う。
日本も、2%の物価安定目標達成を16年度後半と先延ばししているが、中期的目標(日銀政策決定会合で木内委員が言っていることと同じ)にすべきで、金融政策が唯一の選択肢ではないとアドバイスする。
標準理論に反した結果を導き出しノーベル賞を受賞した梶田先生、古い経済、金融の教科書にない新しいアプローチを採用した黒田・日銀総裁、安倍総理は脱デフレの道半ば、明暗の分かれる結果になった。経済は実験が出来ないから難しいと言った経済学者もいる。
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