31日、メデイアは一斉に東電・福島第一原発事故で東京地検が不起訴処分にした東電の旧経営陣の勝又元会長、武藤元副社長、武黒元副社長を業務上過失致死傷罪で「起訴相当」とする議決を行ったと報じた。強制起訴の可能性も出て来たが最大級の安全注意義務を議論することができるか。
専門家の間では賛否が分かれるところで、検察が一度不起訴処分にしたものを改めて起訴することは考えられないとも言う。
事故というものはチョットしたことが原因で巨大な被害をもたらす事もある。その原因も全く未知なものではなく、どこかで検討され事故防止策がとられていれば事故発生には結びつかなかったことになる例が多いのではないか。
事故が起きなければ、「あの時対策を取っていて良かった」と言う事例は公にはならないが、事故が起きてみれば「あの時対策を取っていたら」と言うことになる。
それが、この東電・福島第一原発の放射能事故ではなかろうか。
基本的な問題として、この福島第一原発事故は地震によって設備が破壊され発生したのか、それとも後続の巨大津波によって起こったものか。各種の事故調査でもはっきりしなかったが、最近の解析結果から津波による電源喪失が原因であることが分かったという。
だとすると、東電の旧経営陣はこれほどの津波が押し寄せる事態を予見していたかどうか。そして何故事故防止の対策を取らなかったかと言うことになり責任追及がされることになる。
放射能汚染事故として、避難生活や離散生活を強要され、帰宅も許されない人たち、農産物、鮮魚などの放射能汚染で生活の糧も失っている人たち、除染で発生した汚染土壌などを最終処分する土地の確保で悩んでいる現状を考えると東電・旧経営陣の「責任なし」は納得がいかない。
当然に3年前にも議論された津波対策での旧経営陣の責任問題に決着を付けなければならないのだ。
先の検察の捜査では、M9の東北地方太平洋沖地震と同規模の地震や巨大津波は専門家の間では「予見可能性はなかった」とされていたために「東電の津波対策は不十分」という結論に至らず不起訴処分となったはずだ。
ところが、02年に東電は土木学会の評価に基づき想定津波の高さを5.7mと設定したが、地震発生の3年前の08年に貞観地震や地震調査研究推進本部の見解を基に津波の規模を試算した結果、津波の遡上高さが15.7mという結果を得た(日本経済新聞 2011.8.24)。
だからその時に対策をきちんと取っていれば全電源喪失という事態は避けられ、メルトダウンと言うあってはならない放射能事故は避けられたのではないかと考えられるのだ。
それが問題になったときに東電は確か、「試算は試算、社内の公の会合ではなかった」として経営陣の関与を否定していた。
しかし、その後の事故調査委員会で、防潮堤のかさ上げが提案され、工事費は80億円と見積もられていたはずだが、当時の本社の部門にいた吉田さん(事故当時は福島第一原発の所長)が否定したらしい。事故調査の委員長は、吉田さんは英雄扱いされているが本当は事故の張本人(?)と断じていた。
今回の検察審査会は「 15.7mの津波を試算していたが、原発運転停止のリスクがあると考えて対応を避けている」、「津波は自然現象であり、いつどこで起きるかまで言い当てることは不可能、襲来を想定し対応を取る必要があった」と結論づけた(朝日新聞 DIGITAL 2014.7.31)。
当然の結果だと思う。原子力発電という危険な巨大設備を運転管理する東電にとっては世間が思う以上に事故防止に細心且つ高度の注意義務と安全配慮義務を負うべきである。
例え試算であっても、また公の会合ではなくても安全に対する疑念が出た以上は、最優先で対応すべきで80億円という工事費を惜しんで対策をしなかったとしたら原発トップ事業者として失格ではないか。
万一、3人の旧経営陣が知らなかったとしたら、それこそ東電の経営、管理体制に問題があったことになり、その責任も大きい。東電の会長は○○天皇と言われるほどのワンマンであったとすると株式会社の体をなしていない。
今後、法律で3人の「業務上過失致死傷罪」の構成要件を満たしているかどうか議論することになるのだろうが、国民の一般常識にも答えられる捜査を地検には期待したい。