東電は地震調査委員会の「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」に関して福島第一原発の設計に支障を来す文言について改変を要求する横暴な行為に出たようだ。しかしこの長期評価も2011年2月23日という東北地方太平洋沖地震の発生する(3月11日)間際だったために安全対策に役立つことがなかったのだ。
日本は地震列島でありながら地震学者の多くは原発の安全性について無関心を装っていたが原発震災で逃げるわけに行かないことを痛感した反省から、2013年5月の日本地球惑星科学連合大会で原発をテーマのセッションが設けられ、また日本地震学会の会員の意見を反映させたモノグラフが出版された。
地震学者の良心でいろんな検証がされている出版物だ。
1997年地震学者の石橋先生が「原発震災」を出版したが、2011年3月の東日本大震災で現実のものとなり福島第一原発事故は収束の見られない底なしの状況だ。地震対策の不備な原発が日本中に立地し原発事故は何時おきても不思議ではない事態が続いていたが3月11日に現実になり激しい地震動が重大な事故を引き起こした。決して想定外ではなく、たまたま福島第一原発だったということなのだ。
想定外ではなく、文科省の地震調査研究開発推進本部は三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価の改訂作業を進めていたのだが、時間が間に合わなかったのだ。
その経緯は、2011年2月23日長期評価部会が改訂案作成、3月3日電力会社側9人らと情報交換会、3月29日電力事業連合会などと活断層の評価などで意見交換会の予定だったが、3月11日に東日本大震災が発生した。
この間、問題になったのが政府、国会の事故調査委員会により地震調査委員会事務局が事前に電力事業者に対する事前説明を実施し、電力事業者より文章を修正する要請を受け、修正していたことが明らかにされたのだ。
その情報交換に関して経緯を説明すべきだとの指摘が起こったのだ。公表前に要望を聞くこと自体が問題で失墜した信頼を回復するのは容易ではないと言う。長期評価は公表し、その後で事業者などから要望を聞くのは良いが、公表前に要望を聞くのは本来の目的をねじ曲げられる恐れもあり好ましくないのは当然だ。
そこで、この「2011年3月3日の地震調査研究推進本部事務局と電力事業者による日本海溝の長期評価に関する情報交換会の経緯と問題点」(京都大防災研橋本、東京大島崎、名古屋大鷺谷)がレポートされた。
モノグラフは100ページを越える資料なので全部に目を通し理解することは不可能だが、東電は福島沿岸の津波堆積物調査で4~5mの津波の高さは超えない可能性が高いと主張し、貞観地震の断層モデルの改良の可能性が今後の課題になったし、貞観地震が繰り返し発生していることについては、判断するのに適切なデータが十分ではなく更なる調査研究が必要となった。
貞観地震以外の地震の津波にはどこから来たのかまだ分かっていないので貞観地震が繰り返していると誤解されぬようにして欲しいとも電力事業者は言ったという。
ところが2009年の福島第一原発における地震動評価の場で産業技術総合研究所の岡村さんが貞観地震の地震動を考慮するように主張しており、東電の要求を入れることは中立的な記述とは言えないと長期評価を批判している。
こういった長期評価の改訂に当たりに東電の要請した表現がどう見直しされているかを政府、国会それぞれの事故調査報告で知ることが出来る。
貞観地震の繰り返し性については平均発生間隔600年程度の繰り返し発生する東北地方太平洋沖地震として明記され東京電力の要請が反映されることはなく改訂されているという(政府事故調最終報告書)。
ところが、国会の事故調査委員会の報告では、長期評価の改訂は2009年から進めており2011年4月に公表する予定だった長期評価には福島第一原発沖で貞観地震に相当するような巨大津波が発生する可能性が指摘されていたというのだ。
だとすると、東電の4~5mより高い可能性はないとする主張は何だったのか。高い防潮堤を構築することを嫌っただけではないのか(確か記憶では80億円かかるとも言われていた)。
又、今回の事故で未だはっきりしないことがある。
政府、東電は津波による電源喪失を原因に挙げているが、地震動で配管などが損壊し津波とか電源喪失とは関係なく重大な冷却材喪失事故が発生したという見解が地震学者に多く、国会事故調査委員会報告でも安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定できないという。
新潟県知事が原発の再稼働に反対している要因に、今回の東北地方太平洋沖地震による原発事故に関してその原因がしっかり調査されていないことにある。津波なら防潮堤を挙げれば良いが地震動であるとするともっと対策が必要になってくるのではないか。
国会事故調査委員会は更に、評価結果を規制対象となる電力会社が改変しようとしたのは大いに問題だと一番肝心なことを指摘している。至極当たり前のことで文科省の対応に問題があったことになる。
以上、レポートを読んで気がついたことをまとめてみたが、今までの様に一部の地震学者が原発の安全対策に関与するのではなく、多くの地震学者が良心に基づいていろいろ提案するときだ。規制委員会に再稼働の是非の判断を任せているが敷地内を走る断層が活断層かどうか、近くを走る活断層につながっていないか、あの活断層が動けばこの断層も動くのではないか。活断層か地滑りの跡か。
判断一つで原発が廃炉になる可能性もあり電力事業者は必死だろう。だからこそ自社の意向をくんだ判断をする地震学者を抱え込むことになる。
電力事業者は謙虚に自らの原発立地に不利な見方を優先する姿勢がなければ、今度は自分の原発が事故に遭う番なのだ。
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