2009年5月24日日曜日

産廃処分場建設反対運動は2本立ての訴訟で進む







産業廃棄物最終処分場の新規許可件数が平成12年以降平均30件程度で、平成17年には32件で前年に比べ6件減少した(産業廃棄物行政組織など調査(平成17年実施)。
平成8年には193件、法改正があった9年でも129件あったことを考えると激減である。
 
 10年前は産業廃棄物最終処分場の残余年数も2~3年で、このままでは産業活動に支障を来すと見られていたが、処理費用が高騰したが、困ったと言う話は聞かない。リサイクル意識の向上などで排出量も減って、採算がとれず中止になった計画もある。

 しかし、多くは地域住民の建設反対運動で計画がスムーズに運ばない例が多い。建設反対運動は、設置許可取り消し、工事差し止め・操業差し止めなど2本立ての訴訟が提起されている。

 その建設反対運動で、千葉県が出した設置許可を取り消す住民訴訟の控訴審判決が5月20日 東京高裁は許可を取り消した一審判決を支持し県の控訴を棄却した。住民側が控訴審で勝ったのは全国初だという。

 この住民訴訟は、別に建設・操業差し止め訴訟も平行して争っており、建設工事は2002年に中断したままであるが、この住民運動の背景もしっかり知っていなければ、理解できない。

 この房総の地域は、首都圏から近く、交通の便も良く、不法投棄や産業廃棄物最終処分場の銀座と言われ、多くの問題を抱えている。地域住民はこれ以上の不法投棄や最終処分場を拒否し、子や孫のためにも少しでも良好な自然環境を残そうとしているのだ。

この最終処分場は(株)エコテックが計画し、千葉県旭市など2市1町にまたがる面積約6万2000m3で、金属くずやがれきなど10種類以上の廃棄物の搬入が予定されているが、1998年の住民投票では98%の人が反対した。

当初千葉県は許可しなかったが、業者側が行政不服審査請求で当時の厚生省が不許可処分を取り消し、千葉県は2001年に建設を許可したため2001年12月に工事が開始された。

建設・操業差し止め訴訟では、2002年12月、住民らによる建設差し止めの仮処分が申請され、2003年6月5日千葉地裁で住民側の申し立てが却下されたため、建設差し止めを求めた訴訟では千葉地裁が2007年1月に差し止めを命じ住民側勝訴であったが、業者側が控訴している。

一方、設置許可取り消し訴訟では、2007年8月21日千葉地裁の判決では「県は、授業主の経営基盤に関する調査が不十分で、適正管理は困難、住民に危害を及ぼすおそれがある」として許可取り消しの判断をした。これに対して県が控訴。当時の堂本知事は環境省に設置許可基準を明確に示すように要求していた。
その東京高裁の控訴審で「県は環境影響評価や住民からの意見聴取などを行っておらず、許可手続きに重大な欠陥があった」と指摘、一審判決を支持し、県の控訴を棄却した。森田県知事は「判決文を詳細に読んで、今後の対応について検討したい」とコメントした。

この行政訴訟の争点の一つに、法改正前の申請に対しても、改正後に新たに加わった要件を適用すべきかどうかにもあった。この申請は改正前の1998年に出され、2000年の改正で「環境影響評価の報告」「住民からに意見書提出」が強化されたが、判決では改正前の申請にも改正後の要件が適用され、県の処分は違法であるとした。

当時は、大規模開発に対しては「環境影響評価」「住民の同意書」は必要であったことを考えれば仕方ないことかも知れない。

両訴訟共に、業者、地域住民、県が泥仕合を展開している感がする。

住民側の争点は、遮水工の信頼性に問題があり地下水や飲料水源の汚染の危険、事業者の資金繰り経営基盤の脆弱性と経営不振による許可外の廃棄物の搬入の危険、維持管理への心配、埋め立て物の飛散による生命、身体への直接的な危険などがあげられる。

そこでもっと詳しく知るべく、2003年6月の「産業廃棄物最終処分場建設差し止め等仮処分命令申し立て事件」の決定書を住民代表のご厚意で入手し、検討することが出来た。

この決定によると、最終処分場は社会的にも必要なものであり、遮水システムも品質、耐久性においても問題はなく、きわめて信頼性が高く安全である。また住民側が主張する有害物による地下水汚染はなく、健康被害においても十分に立証されていない。資金繰りについても、確かに20数億円も必要で積極資産を有していないことは認められるが、操業開始後の収入などを考慮すれば、採算性のある合理的な計画であると評価している。

健康被害への立証を素人である住民側に要求することは、相当厳しい事であるが、計画されている遮水システムは、2重構造で閉鎖後はキャピラリーバリア型覆土をするなど、当時としては水準の高い構造の最終処分場である。この構造での処分場を否定されると建設は不可能に近くなる。また、維持管理についてもしっかりした会社が見るようになっているが、裁判長は「安全性の根拠が失われれば、操業などの差し止めを認める事がある」とも注意を喚起している。

同一の産業廃棄物最終処分場建設で、争点も大体同じ訴訟で正反対の決定が下されることはよくあることである。裁判の過程で具体的にどう争われたか分からないが、裁判官の心証に負うところが多く、住民側も業者側も戸惑うだろう。

工事着工後の許可取り消しや建設差し止め、操業差し止め訴訟など事例は多い。例え住民側が勝訴しても工事が中止になれば大規模な環境破壊が残される。業者側に原状回復を要求してもほとんど元通りにはならない。

工事をしたのは約3ヶ月。ほとんどが準備作業を含め、予定敷地内の樹木の伐採や、工事用道路の整備で山肌が露わになったままで中止され、もう7年が経っている。当初は降雨などで表土が周辺に流れ出したりしただろうが、今は表面を樹木や草が覆っているだろう。

一度工事に着工したら、最良の方法は、遮水システムなど重要構造物については現在考えられる最高水準に準じたものを採用し、維持管理は住民側立ち会いで監視していく方法を要求した方が良さそうな気もする。

 民間業者が計画すると、安価な遮水システム、処分場構造、飲料水源付近への立地、資金繰りに窮して許可廃棄物意外の廃棄物の搬入、有害物質の搬入、許可容量以上の埋め立てなど最終処分場への住民の不信は消えない。

資金への不安がないように、産業界が責任を持って最終処分場を建設したり、税金で産業廃棄物の処分場を作ることへの批判もあるが、自治体が係わることなど考えていかなければ産業廃棄物最終処分場の確保は難しくなる。民間業者に頼っていては埒があかなくなる。

また、今世紀前半には、超巨大地震の発生などが予測されている。迅速な震災復興には災害廃棄物の処分場の確保が必須であることは、兵庫県南部地震でも経験している。

 産業廃棄物最終処分場建設予定地を町民が買い上げて、建設を阻止した群馬県下仁田町の例がある。高峰リゾート開発が計画したゴルフ場建設が破綻した後、民間業者が買い上げ最終処分場建設に着手、町役場挙げての反対運動に発展した。一戸あたり高額な出費になったが、後世への自然環境を守るためには、これしか手はなかった(写真 事業者による住民説明会)。

 民間会社では、初期投資に限界がある。仕方ないことであるが、住民の同意を得るにはそのとき考えられる高水準の技術の採用が不可欠である。前橋市最終処分場は、その意味では好例である。処分場は民家の庭先まで迫っているが、度重なる交渉で住民の不安を払拭できたのだろう。家庭から排出する一般廃棄物の処分場であるために住民の同意も得やすかったことは考えられる(写真 前橋市最終処分場の一部)。

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