2015年7月31日金曜日

東電元会長らを強制起訴:経営トップの安全配慮義務を認めるべきだ

東京第5検察審査会が東電元会長ら3人に「起訴議決」したことで東京地検が2度に渡り不起訴にしていた経営トップの経営責任が問われる事になった。原発という巨大技術を運用する原発事業者にあっては「万が一」の場合でも高度の注意義務を経営者に課さなければ国民の生命、財産を守ることは出来ない。

東京地検の不起訴処分では福島第一原発の事故の背景が分からなかったが、今回経営トップが法廷に出ることで新たな証言が聞けるのではないかと注目したい。

この福島第一原発事故の焦点は、(1)新しい知見から津波の水位が15.7mになる試算が出ていたが東電は巨大津波の来襲を予測できていたか、(2)もし対策を取っていれば今回のような総電源喪失によるメルトダウンは回避できたかなどだ。これはメデイアでも報じられている。

そのほかに私は東電の経営トップに安全注意義務があると考える。業務上過失致死傷罪に問われると経営トップの「業務上」が問題になり社長や副社長の日常業務に安全配慮義務があるかと言うことになり、今まではそこまではないとされてきた。

東電福島第一原発の事故前の津波の想定高さは5.7mだったが、新しい知見で試算しなおした津波高さは15.7mで防潮堤の高さを上げるには80億円かかるという社内研究で若手研究員が報告していたという。

そのため、東電はこのままでは危険だと言う認識を共有していたとしたら防潮堤をかさ上げする決定をしなければならないが、それを怠った責任があると言われていた。

ところが東電は社内研究とはいえ正式な研究会ではなかったとして責任回避の手に出た。そこのところは事故調査報告でも言及しているはずだ。

国際原子力機関(IAEA)も福島沖でM8.3の地震が起きれば津波の高さ15m程度となる試算をしていたにもかかわらず東電は処置をとらなかったと指摘している。

さらには従業員教育、過酷事故対応が国際的な慣行に沿っていなかったともいう。我が国の原発事業をリードする東電に安全意識の欠如を見ることが出来る。この考えが社内に蔓延っていたとしたら経営トップの責任でしかない。

そして津波高さ15mの対策を取っていれば今回の重大事故を回避できたかということだが、これについては難しさがある。そもそも今回の福島第一原発事故は地震による機器の損傷で起こったものか、後に続く津波による機器損傷から総電源喪失に至ったのかがはっきりしない。大方は津波による被害とみているが地震に夜被害とみると考え方が違ってくるのだ。

それでも総電源喪失によるメルトダウンが発生したのは確かだ。では誰も総電源喪失による危険を予測していなかったのかというと疑問なのだ。福島第一原発の所長経験者が総電源喪失の危険を認識していたのだ。

安全対策よりコスト優先、原発事業者としての責任を果たしていないとはよく言われたことだが、これほどの巨大事故を起こしていながら東電経営者にお咎めなしとは不思議なことだ。

企業が事故を起こしても経営トップには日常業務として安全配慮義務まではないと言われ
通常は担当部門の長や実際の担当者がその責に問われた。だからなかなか企業の安全意識は高まらない欠点があった。

ところが原発という巨大技術を運用する東電のような事業者にあっては特に高度な安全義務が課せられるべきである。そして経営トップである社長や副社長にも日常業務として安全配慮義務を課すべきである。

そうすれば事業者の安全確保の意識が高まり国民の生命や財産を守ることも出来るのだ。

これを機会に、裁判でも企業にあって経営トップの安全配慮義務を厳しく問う法理論を確立して欲しいものだ。検察も従来の法理論に頼っていては巨大化、複雑化する技術に後れを取ることになる。

私たちは安全と紙一重の技術に頼る生活をしているのだ。

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