日銀・黒田総裁が「物価が伸びない」と悩んでいるが、日銀、安倍政権が考えている「物価上昇の基本メカニズム」が間違っているのではないか。異次元の金融緩和を無理押しするために副作用も顕著になり、日銀内でも見直しが言われていたが、安倍政権を忖度する余り日銀の自主性は発揮できていない。
日銀の金融政策決定会合後の黒田総裁の記者会見では何時も同じ事をオーム返しし日銀の本音を言わない。「伸びぬ物価」に「物価上昇の基本メカニズムは作用している」と言うが、今までの経過を見ると基本的メカニズムが間違っているのではないか。
日銀は見直すと言うが本質的には変わっていない。「作用している」というのも悪い方向に作用しているのではないか。
安倍政権発足時からアベノミクスで異次元の金融政策を打ち出した。
「市場にカネを流す→長期金利を低く維持する→企業は投資へ→消費が伸びる→物価上昇」、これが抱いていた基本メカニズムではなかったか。しかし、5年経っても2%という目標にはほど遠く、達成時期を先延ばしするばかりだ。
確かにその間、経済情勢も変化するが一様に「緩やかな拡大基調」だ。それでも成果が出ないのは「金融政策に大きな間違いがあるのではないか」と考えないのか。
その背景には安倍政権への配慮があるのではないか。日銀が失敗、見直しを言うと安倍政権にとっては痛手だ。
物価上昇率も会合の度に引き下げられている。19年度は1.5→1.4%に、20年度は1.6→1.5%に。景気は拡大し、雇用も改善しているのに「弱め」の動きだと言う。それでも目標達成の勢いは維持しているが、デフレマインドが強すぎると弁解する。
その理由に下振れリスクを挙げる。米中貿易摩擦、世界に蔓延りだした保護主義、今まで世界経済をけん引してきた中国経済の減速、ドル高で新興国からの資金の流出、消費税増税 などが上げられる。だから目標も「後ズレ」すると言うのだ。
今後の方針について、「経済/物価に大きな影響があれば金融政策自体を調整する」と金融政策継続の常套句を述べる。何があるのかと考えるとマネタリーベースの拡大、ETFなど資産の買い入れ拡大だ。何の魅力もない政策だ。
長期金利も年0%誘導の緩和策を継続している。
国内経済を見てみよう。
製造業にとって投資すべき国内需要がないため製造は海外に移転、国内は不動産、株などでバブル状態だ。法人税下げなどで内部留保は450兆円のもなる。加えて富裕層などへの優遇税制で格差拡大。金利が低いので低所得者には預金金利が期待できない。そこで消費も伸びない。
中央銀行が金融政策で対応出来るのは金利の操作で物価の安定と雇用を守ることだが、物価は2%には達成しないが、デフレではない。低率でも安定しているのではないか。雇用も増加しているが非正規労働者の増加では問題だ。人手不足で外国人労働者を受け入れるというが、そうでもしなければ日本社会がやっていけなくなるようではいろんな社会現象が出てくる。
多くは政治の責任だ。
そこで22日、日本記者クラブで白川前日銀総裁の講演が気になった。
白川・前総裁は「日本経済が直面する問題の答えは金融政策にない」、「根本問題は高齢化と人口減少」だから「財政の持続可能性に向けてしっかり取り組むのが最大の出口戦略だ」という(朝日新聞2018.10.23)。
民主党の野田政権の時、白川さんは日銀総裁で既に緩やかな「金融緩和」をやっていたが安倍総理になって急激な緩和策を要求してきたのだ。抵抗した白川さんは任期を待たず辞任した。「白川さんが続けていればどうなったか」と言うことも出来るが異次元の金融緩和は「非伝統的な金融政策」なのだ。
「時間稼ぎ」の政策で財政政策の出動が要求されるのであるが安倍政権の財政政策の効果も見えてこない。
共に協調関係になくてはならない金融政策と財政政策であるが、共に成果が上がらないのでは心許ない。
物価上昇へのアプローチが間違っているのであれば早急に見直しすべきであるが、今の物価は安定していると見るのであれば出口戦略への挑戦が必要になる。
安倍総理は所信表明と代表質問に答え財政再建は2015年度のプライマリーバランスの黒字化を確かな物にすると言うが、欧米先進国が赤字規制として「GDPの3%以内」を厳守しているが日本はどうなっているのか。
金融緩和ではデフレでない状況を作り出せたが、後戻りしないための道筋をしっかり付けるというが、出口戦略については黒田さんの手腕を信頼するという。
過去5年間の総括と今後の経済政策運営方針を聞きたいものだ。日銀は政権と距離を置くべきではないか。
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