2009年12月3日木曜日

住民の不安は募るばかりの八ツ場







話し合いを求める国土交通相、5万人を越える署名を集めて推進を訴える地域住民、そして生活再建事業がどうなるのか。前原さんは「生活再建事業はこれまで通りつづける」と言うが、前提になるのは「ダムに頼らない生活再建」だ。住民は「見直しされるのでは」との不安を募らせる。

 そんな時、新聞報道によると移転先の川原畑地区と川原湯地区を結ぶ「湖面1号橋」の4本の橋脚のうちの2本分の工事の一般競争入札を群馬県が公告したと言う。橋脚1本分は既に発註済みだが未着工だそうだ。

 前原さんは、はっきり言わない。県も先行き不透明としながらも予定通り実施する立場をとっている。

 1ヶ月半ぶりに長野原を訪れた。紅葉も終わり観光客もまばらだが、「やんば館」や湖面2号橋の工事現場付近は、観光のポイントになっている。

 ダム湖に架かる3本の橋のうち、もうすぐ完成するという3号橋(林地区と横壁地区を結ぶ一番奥の橋)のある横壁地区に初めて行ってみた。国道145号から橋を渡って吾妻川の対岸にあるが、「工事関係者以外進入禁止」など立ち入ることを躊躇させる看板が多く立っている。古い家屋が多いが、護岸工事が終了し新築の家が建っているところが新しい移転先なのだろう。

 3号橋とその向こうにクレーンのそそり立つ2号橋工事現場が目に入った。土建会社の現場事務所の看板も目立つ現場を、あちこち走っているうちに、工事が途中で止まっている3号橋工事現場と解体中の家屋、解体撤去後の平地、木々の切り株など工事再開に向けての準備が進められている場所に出た。

 解体中の家屋では、元の家主だろう年配の男性が業者に混じって片付けをしている。「解体ですか」と声をかけるとウンとうなずいた。必要なモノは運び去った後のようだが、それでも片づけている。何十年も暮らした家だ。思い入れがあるのだ。近くの民家でも植木の移し替えが始まっている。

 付け替え国道、県道、移転先を結ぶ為にダム湖に3本の橋が必要であること自体、何か無理なダム計画であるような気がする。

 総事業費4200億円のうち予算ベースでは7割ほど使っていると言うが、学校の移転、個々のトンネルを除いては、何一つ完成しているものはない。八ッ場ダム建設反対者が、「事業費はもっと上がるはずだ」ということもうなずける。

 次いで、1号橋の架かる予定の川原畑移転先に行ってみた。現場に架かっているこの付近の完成図を見ると立派な橋が架かるようだ。この橋の橋脚2本分の一般競争入札を県が公告したのだ。新築工事も進んでいるが、まだ数は少ない。神社は一番早く移転した。

 最後に川原湯温泉街にいった。平日の午後だから温泉街には特に活気がない。美容院が解体されていた。すでに移転先で営業をしているらしい。

 昼食をとるために、ラーメン屋に入った。注文した野菜ラーメンは野菜がたっぷりのっている。「すごいな」というと、ご主人が笑った。

 「反対運動は進んでいるんですか」と聞くと、「民主党案にですか」と問いかけてきた。そうなんだ。ここでは反対というと「ダム建設に反対」なのか、「民主党の建設中止に反対なのか」、区別しなければならないのだ。

 移転を1年先位に考えているそうだが、まだ移転先は造成中であり、移転先で営業しても商売になるかどうか不安なのだ。計画がはっきりしないと温泉旅館も大変なことになる。ある旅館で200万円以上かけて修理したそうが、移転が決まっていれば必要のない金を使ったことになる。

 この温泉街は、源泉から温泉水を木管で各温泉旅館に送水しているが、これも痛んでいるらしい。埋設し直すにも移転の問題が絡んでくる。

 ご主人は「ダムを作らないのであれば、橋を3本も作る必要はない。こんなに大きな環境破壊をしてまで」と言う。JRの新川原湯温泉駅もまだ工事もやっていない状態らしい。

 温泉街の一番奥が予定地だというので行ってみた。何回も来た所だがここが新駅が出来る場所とは気が付かなかった。何のための工事かは分からないが始まっており、その先には有名になった湖面2号橋につながる。

 生活再建を優先するにしても、移転先もままならず、商売になるかどうかも不透明、温泉街はどうなるのか。ダム湖のない温泉街では魅力がないし、今の場所で温泉街の再生が出来るのか。

 上流の住民には、また違った考えもあるようだ。

 ダムに頼らない生活再建と言うが、50年もダム建設と付き合ってきた人達だ。ダム前提での生活を考えていた所に、「ダムに頼るな」と言われても頭の切り替えには急には出来ない。ダム計画を中止し、生活再建に切り替えた先例もあるが、住民のコンセンサスを形成するには相当時間がかかったらしい。
 
 政治に振り回された無謀な計画だったと考えられるが、途中で止めるのも無謀過ぎる。民主党政権は「政治主導」でどう解決しようとしているのか、前原さんは早急に生活再建策を提案すべきである。

0 件のコメント: