2013年9月6日金曜日

「誰のための改革か」と訴え続けた財界のご意見番、品川正治さん逝く

私の若い頃は、財界のご意見番として経済同友会代表幹事だった品川正次さんの名前は記憶している。土光臨調で名を馳せた土光敏夫さんほどの記憶はないが、ことある毎に新聞にコメントが掲載されていたのだ。その品川さんも亡くなられた。

丁度、今日(96日)の朝日新聞に掲載された品川正次さんの「評伝」が目に止まった。読んでみてやっぱりすごいと感じた。今、混沌とした日本の政治、経済で課題になっていることにもしっかりした考えを持っておられたのだ。

政治家、経営者は、改めてこの「評伝」を読んでみることだ。

まず、品川さんにとって憲法9条は絶対堅持なのだ。

学徒出陣で中国に出征、復員船の中で新聞に載った憲法草案を読み、「国家」でなく「人間」の視線で条文が書かれていることに涙したと言う。

今、自民党や維新の会は、新しい日本を築いて行くには、まず自前の憲法を作らなければならないという。自衛隊の存在、集団的自衛権など憲法9条はもう解釈の見直しでは対応が難しくなっているのも確かだ。しかし戦争を経験した人間にとって憲法9条は死守すべき条文なのだ。

現憲法を与えられた憲法と批判するムキがあるが、連合国から憲法草案の指示があって日本側が作成した案では民主政治にほど遠い内容であると言うことで、連合軍が独自に提案したしたものだ。決して押しつけではなく、日本側の意向で削ったり加えたりした作業もやって成立した憲法だ。

働くことにも拘った。人を痛めつけたり、幸せにしない国も会社も存在意義はないと品川さんは考えた。今は存在意義のない会社、国がはびこっているではないか。そんな中でも「従業員あっての会社」という経営で成功している中小企業もある。

また、政治家がよく言う「米国とは価値観を共有している」とは、とんでもないことだともいう。世界中で戦争を続ける米国と憲法9条を持つ日本では価値観が同じはずがないというのだ。時の政権は米国と価値観を共有することで政権の支持を得ようとしたし、得てきたのだが、品川さんは矛盾を指摘していた。

イラクへの米国の軍事介入に一番最初に支持を表明し、今シリアへの軍事介入で日米連携を確認しあっているという。品川さんはどういうだろうか。

また米国流の経営手法、構造改革路線も品川さんは批判している。米国流ではその果実の多くを株主や資本家が握るが、日本は果実をみんなで分け合ったという。その日本的経営は否定され、米国流の経営がもてはやされた。

そんな改革で働く社員ら人間が幸せになるのかと「誰のための改革か」と批判を止めなかったという。

アメリカに留学しMBAをとって帰国し、会社経営に当たることがはやったこともある。米国の経営手法も取り入れられ、アメリカナイズされた経営が主流となり、徹底したコストカットは、人件費抑制、人員削減となった。グローバリゼーションで世界を相手に競争しなければならなくなると人件費が一番のネックになったのだ。

輸出に頼らない内需拡大を海外から要求され、前川レポート、21世紀版前川レポートが作成されたが、構造改革は進んでいない。企業の儲けを家計に再分配することに抵抗する経営側の考えでうまくいかなかった。

経済財政諮問会議でも日本型経営への見直しが課題になったことがある。

今、安倍政権は「日本の経済を取り戻す」ために競争を通じて経済を成長させようとしている。産業競争力化法案(?)とか言う法案の提出も準備しているらしい。でも、昔の良き日本的社会、日本的経営を取り戻すには社会に信頼関係を築き直さなければならないのではないか。

品川さんの考えは経済界のトップとしての経験から、その意義は大きい。


経済界のトップが率先して構造改革をやっていく気構えが大事だが、今のトップにその気概は感じられない。

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