2014年11月23日日曜日

自民党の「日本再生には「この道しかありません」」には無理がないか

自民党は「今、アベノミクスの成果が、日本を確実に
再生させています」という
自民党HPより
自民党が選挙公報(?)で言う「日本再生には「この道しかありません」」には少し無理がないか。「景気回復にはこの道しかない」と安倍総理は今回の「アベノミクス解散」の最大の争点をアベノミクスの評価に置いた。与党は「成功」、野党は「失敗」と訴えるようだ。

アベノミクスでデフレ脱却は正しい道なのか。

アベノミクスの「第一の矢」金融政策で円高→円安、株安→株高に転じ企業収益アップ→賃上げ→消費、設備投資拡大→税収増と好まし経済循環を考えていた。ところが円安になっても海外へ移転した生産設備は帰ってこず、海外からの企業の誘致も優遇税の効果はない。

政府は税収の乏しい中で法人税を更に10%段階的に下げる手を打っているが内需拡大は覚束ない。脱デフレを目指し2%物価目標達成も政府、日銀は強気だが民間エコノミストは否定的だ。

供給過剰で需要が不足しているのにインフレなど起こりようがないと言うのが経済学の基本だ。

更に、先の消費税増税8%で景気は後退し回復が遅れている。当時は大方のエコノミスト、経済財政諮問会議の民間議員が「増税しても経済は成長する」とコメントしていたはずだが大きく外れた。勿論規制緩和、財政政策の必要性にも言及していたが、その「第二の矢」「第三の矢」に実効性が乏しい。

おまけに我が国は1000兆円を超す先進国一借金が多く、海外からも財政再建が強く要望されている。安倍総理は財政再建、経済再生を車の両輪と言うがバランスを取るのは難しい。

景気後退、回復が遅れている中で更に10%への増税は折角のデフレ脱却のチャンスを台無しにすることになると今回増税を先送りし、その是非を国民に問う解散・総選挙に打って出た。

今回の選挙で、安倍総理は「アベノミクスの成果」に争点を当てたいようだ。

自民党のHPから「景気回復、この道しかない」と言う選挙公約を開いてみた。

新聞報道では「成果をもっと数値をあげて説明を」という安倍総理の要望があったと言うだけあって数値が網羅されている。

就業者数は約100万人増え、22年ぶりに有効求人倍数も1.09倍と高水準になったという。確かに改善しているように見えるが、その内容は非正規従業員数の増加で決して理想的ではなく、また都市と地方では格差がありすぎる。

賃上げも過去15年で2.07%と最高だったという。しばらくは賃上げゼロだったので今回の賃上げは大きい。しかしこれも格差があり先日の政労使会議でも安倍総理が更なる賃上げを経済界に要求したが、経済団体によっては思惑も違う。企業の儲けを家計へ再分配するシステム作りは遅れている。

企業倒産件数も1072件/月から871件/月に20%減ったと言うが、テレビでの情報では今回の円安→原材料などの物価高で中小企業の経営は厳しさを増し円安倒産が増えるとみられている。中小企業の経営者が「コストアップ分を発注企業が認めてくれない」とぼやいていたのを見て安倍総理は「儲かっていますと言うと安くしろ」と言われるので「誰が本当のことを言いますか」と反論していたが経営者の気持ちが分かっていない。

消費税増税分と共に中小企業のコストアップを認めさせる政策をとるべきだ。「仕事量は増えたが儲けはない」という中小企業経営者のコメントにデフレ下の経営が続いていることが分かる。

日本企業の海外インフラ受注が3倍になっているとも言う。安倍総理はすでに50カ国を訪問し原発や新幹線などをトップセールスしているのは確かだ。でも原発輸出には多くの批判がある。

女性の活躍では女性就業者数が80万人増えたという。女性の社会進出は重要であるが安倍総理の女性活用発言は耳にたこが出る位だ。増加の内容がはっきりしないが生活苦から家計収入増の足しに仕事に出ている場合もある。一概に評価は出来ない。

安倍総理のアベノミクスの評価でもデータの取り方によっては逆にもなるので判断が難しくなる。

多くの人は賃上げがあったとは認めるが円安による物価高、消費税8%増税で実質収入はマイナス成長が続くと批判するが、安倍総理は雇用者総所得(雇用者数×賃金)では増加していると抗弁する。
同じ経済指標でないから議論は平行線をたどり有益な議論は出来ない。

経済の国際競争力を付けるために現行35%程度(東京都の場合)の法人税を段階的に25%程度まで落とすという。しかし租税特別措置法など企業への優遇税制を考慮すると、すでに20%台ぐらいにはなっているというのだが、安倍総理は25%にまで落とすというのだ。

また、国債の信用問題もあって財政健全化目標は堅持することを付け加えるのを忘れない。経済再生と財政再建は相反する政策であるが日本再生には車の両輪だと言う。でも歳出を削減するのではなく国土強靱化の名目で公共事業などを増やそうとしている。当然に赤字国債発行で対応することになれば財政出動の一方で財政再建に反することをやろうとする。

財政出動が景気を良くして税収増になれば財政再建も出来るのだが、今そううまくは回らない。

国土強靱化、インフラ老朽化対策、国民の生命、財産を責任を持って守ると10年で200兆円必要と言うが、年に20兆円ものカネがどこにあるのか。どうして捻出するのか。

LED開発でのノーベル賞受賞もあって基礎研究、人材育成や産学官の連携を強化し「最もイノベーションに適した国」を実現するとも言うが、LED開発は相当昔の研究体制の賜である。今、研究開発の特殊法人設置の構想が進んでいたがSTAP細胞論文不正事件で頓挫している。本当に特殊法人を認定しそこに人材、カネを集中して効果が出るのか。寧ろ地方の大学、研究機関、私企業での研究を応援した方が研究の裾野を広げることにならないか。

今、足元の経済状況は悪い。改善のために力強い景気対策を速やかに実施するために補正予算を組むという。経済財政諮問会議でも民間議員が本予算以外に補正予算などが巨額になってきたのは問題で、総合的に見直しが必要ではないかと提言していた。財政健全化からも是非見直しすべきである。

安倍総理が問題点を絞ると言っていたが、経済再生、財政再建だけでも議論は尽きない。

ただ注意しなければならないことは「アベノミクス」という用語を使うことで全てをひっくるめて安倍総理の経済政策を評価することは危険である。

読売新聞(2014.11.23)の世論調査によると、アベノミクスの評価が拮抗しているという。「評価する」45%、「評価しない」が46%だ。

評価しない理由は分かるが、評価するにはどんな理由があるのか。


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