災害時は「人命第一」、「命を守る行動を」とテレビは繰り返すがどうしても死者、行方不明者が絶えないのか。「何故、逃げないのか」、逃げていたら助かったのにと思うのだが、被災者にはそれなりの理由があったのだ。
新聞報道で今回の台風19号での人的被害を見ると、死者87人、行方不明者8人、男性58人、女性30人、7割の59人が60歳以上で60代18人、70代20人、80代13人、90代8人になっている。
男性が多いのは、川の様子を見に行くとか、田んぼを見に行くとか、車で家族を迎えに行くとか、それぞれ理由はある。その結果、川や側溝に落ちたり、急激な増水で車ごと浸水してしまったり、いろんな理由があるのだ。
物的被害は仕方ないとしても人的被害は少なくしたいものだ。西日本豪雨では死者が200人、岡山県倉敷市真備町の水害では51人、その中で9割が高齢者だった。
高齢者の被害が多いのはいつものことだが、一人暮らしだと情報を得て判断することが遅くなる。
被災地からは貴重な教訓がもたらされる。3.11東北地方太平洋沖地震では「まず逃げろ」「周りを気にするな」というし、防災教育の専門家の片田東大教授は「率先して避難者になれ」と教える。
片田先生は釜石市で小学生に防災教育、訓練をやっていた実績がある。3.11のときは高学年が低学年の手を引いて整然と高台へ非難しているシーンがテレビで流れていた。涙が出る思いで見ていた。普段からの防災教育の必要性と、誰かが「高台へ逃げろ」と大声で指示する必要もある。
校庭に集まったが、子供たちが「早く逃げようよ」と提案しても先生が「どうしようか」と相談するのに時間がかかって逃げ遅れて被害にあった例もある。
家庭でも同じような事態になる。子供が「早く避難しようよ」と言っても親が「チョッと待て」と判断に迷っているシーンも出てくるのだ。親も子供に負けてはいけないのだ。
それでも「何故、逃げないのか」
2007年7月4日に開催された日本災害情報学会被災シンポジウムの資料を見ることができた。重要な意見が出ている。
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避難する比率は上がっているのだが本質的に「人間は逃げられない」のだという。だから避難させようとすると大変なのだろう。
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役所が困るのは早く勧告しても失敗することがあることだが、謝ることもできるので失敗を選ぶのだ。
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水害の難しいところは被害のイメージがわかないことらしい。情報はあるが被害をイメージすることが難しい。ここが「逃げる」か「逃げない」かの分かれ目になる。被災地の被災者のコメントをテレビニュースで見てもこの点が重要なのだ。
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臨界点がつかめないともいう。被害を受けたことはあるがどこか甘く見ている。逃げるという意思決定ができない。情報が毎回外れていることもある。
的確な情報を住民に知らせるコミュニケーションを築いていき、信頼関係を築くことだが、今は公務員の数も減り災害関係の部門も専従が一人であとは兼務という役所もある。首長も経験がないとまごつき対応が右往左往する。役人は一生懸命やっているつもりで被災者にとってみれば不満だらけだろう。
不満は物的被害のほうが大きいだろうが、人的被害を少なくするのは一人ひとりの努力だ。ハザードマップを信用し「命を守る行動」が第一だ。
ところが今回の被害で想定外の事態も発生しているようだ。突然の増水、浸水で避難指示を出すのがかえって危険を判断され指示を出さなかった例も出ている。ハザードマップでは区域外になっていたが見直されて区域内だったことも。困るのは避難所から別の場所に避難する必要が出たところもある。市役所、町役場、病院が浸水域になっていることだ。
東京では江東5区で震災のときは近くの隣接自治体の避難所に逃げろといってもそんなに受け入れる規模の避難所は確保できない。車に寝るのではなく、早めに親戚、知人宅などへ避難すべきだと専門家は言う。
「周りを気にせず」まず自分、家族の命をどうやって守るか、平素から家族で相談しておくべきだ。
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