2015年5月23日土曜日

クルーグマンのコラム「過ちを認めないのか」:間違いでも多数意見は生き残れるのだ

朝日新聞(2015.5.22)のクルーグマン・コラム「ブッシュ・ワールド 過ちを認めないのか」は私たちにも思い当たる点が多い。間違っていても多数派の意見を吐く人間は生き残れ、逆に正しくても少数派意見を吐く人間は無視され忘れ去られる風潮が政治、経済面でも強いのだ。

直ぐ思い出すのが3.11東北地方太平洋沖地震による津波被害(?)で福島第一原発が全電源喪失で冷却機能を失い原子炉崩壊事故を起こした時だ。NHKの解説委員はいち早くメルトダウンが起きていることに言及したが、その解説員は直ぐに画面から消え、他の多くの解説委員はメルトダウンへの言及を避けた。

後になって早い時期にメルトダウンが起きていたことが判明した。正しいことを言った少数派の専門家が葬り去られ(後に復帰したが)、メルトダウンに言及しなかった多数派意見を言う専門家が御用学者として重用された。

政府筋の意向が働いたのは確かだがメデイアは正しいことを言う少数派意見を遠ざけたのだ。周辺住民を混乱させてはいけないという政治的姿勢があったとしても問題になった。

クルーグマンさんはコラムで言う。次にアメリカの大統領選に共和党から元大統領でジョージ・ブッシュさんの弟に当たるジェブ・ブッシュさんが立候補するというのだが、その外交政策の上級顧問リストにイラク戦争で重要な役割を果たした人たちが名を連ねていることに異議を唱えているのだ。

当時米国は、イラク戦争では解放者として歓迎され戦争コストはほとんどないと反対する同盟国を説き伏せ戦争に入っていったが大量破壊兵器は見つからず人命とおカネを投じても何ら安定は得られず、その後の混乱が今のイラクの混乱につながっている。

クルーグマンさん曰く、「ブッシュ・ワールドでは壊滅的に失敗した政策に中心的役割を果たしても未来に影響力を奪われる訳でもない」と。失敗した人が再び要職に就くというのだ。

更に、クルーグマンさん専門の経済政策を見ると、共和党指導者に大きな影響を与えるエコノミストには当時、「住宅バブルはない」、「米国の経済は明るい」、「FRBの取り組みは深刻なインフレを起こす」「オバマケアーは雇用に大きなとどめを刺す」と予言していたエコノミストがリストに挙げられているがバブルは弾け、インフレは起きず、雇用は2014年には最高の雇用を創出したという。

エコノミストは完全に間違っていたのだ。

時の政党はの考えに疑問の声を上げただけで破門され返り咲くことが全くない。「勝ち残っている人たちは、過去に過ちを犯した人ばかり」と喝破し「過ちを認めないのか」ということになるのだ。

極めて重要な問題で間違った人だけを受け入れるような政治的公正が共和党には広く浸透していると米大統領選の共和党候補者に懸念をしめすのだ。

しかしこの傾向は米国だけでなく、ずばりとは言わなくとも我が国にも謂えることではないか。

アベノミクスに異論を唱えようものならそのエコノミストは遠ざけられ、安倍政権にヨイショする評論家、エコノミストが重用される。アベノミクスが正しい経済政策と言えるかどうかはもう少し先になるが、懸念を示す人は反・安倍政権でありヨイショする人が間違っていても多数派意見として生き残ることが出来るのだ。

経済指標が更新される度に、エコノミストは先をどう読むかで自らの考えを開陳するが
例え間違っていても性懲りも無く又出てくる。メデイアは「当たったか、外れたか」を追求しないのが常識なのだ。

今、問題になっている集団的自衛権の行使で安保法制の閣議決定が先行し、やっと国会審議が始まった。

閣議決定が先行する解釈改憲は可笑しい。事実上の憲法改正、安保改定ではないかという意見は少数意見で、メデイアに顔を出す大方の意見は容認している状況だ。安倍総理は「国民の命と生活を守る」と力説するが逆に危険に晒しているのではないかとも思える。

先の党首討論でも安倍総理の答弁は肝心な点へ踏み込むのではなく、回避しているので質疑にチグハグさが目立つが、いつものことだ。

確かに尖閣問題など中国への抑止力には自衛隊の強化、日米安保の強化が必要なことは分かるが、解釈改憲では国民の民意にも反している。ここは憲法改正、安保改定が常道だが。そのハードルは高い。
安倍政権の強引な政策運営に警戒心を煽るがメデイアも少数派意見より多数派意見に沿う傾向が強い。

どちらが正しいかは歴史が証明してくれる。イラク戦争の是非も歴史が証明してくれた。

ところが同じ朝日新聞の「記者レビュー」欄にテレビ制作者らでつくる放送人の会が今年の放送人グランプリにTBSの「サンデーモーニング」を選んだというのだ。

その受賞理由に、政権側からテレビへの口出しが目立ち、テレビ側の萎縮も起こっている。去年までとジャーナリズムの様相が変わったことを賞に反映させたかったという。報道姿勢の変容が危惧される昨今、中庸を貫く確かな存在感を示しているというのだ。事例として安保法制閣議決定の話題で、岸井さんは「事実上の憲法改正」だと主張したのだ。

安倍政権も耳触りの悪い少数意見を牽制し退けるのではなく耳を傾けていく姿勢がなければ政権基盤は弱くなる。


今からでも遅くはない、「過ちは認めるべきだ」。


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2015.5.15掲載
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