2014年10月4日土曜日

東京都大田区・馬込文士村が「あの頃は笑いに充ちていた」と懐かしむ

大田区立郷土博物館 10月3日
東京都大田区・馬込文士村が「あの頃、馬込は笑いに充ちていた」と懐かしがって大田区立郷土博物館で馬込に一時居を構えていた作家など著名人の特別展を開催している。笑いの少なくなった今、「どんな笑いがあったのか」と思って特別展に行ってきた。

特別展パンフレット
博物館2階の「馬込文士村」の展示室に入っていった。尾崎士郎、宇野千代をはじめ多くの作家の履歴と出版物が展示されていた。ここ馬込文士村には、多くの文人が誘い合って一時居を構えた。地下鉄浅草線・西馬込駅前の案内板には約70の居宅場所が記され周辺の散策を紹介している。

当時都内は震災などで住宅事情が悪かった事もあり、尾崎士郎、宇野千代などを慕って、別荘地的場所だった馬込に移り住んだそうだ。

当時はうっそうと木が茂った広大な邸宅が、広大な大根畑、雑木林に囲まれて建っていたそうで、「追いはぎ坂」と名の付いた坂も存在する。

作家の紹介パネル、出展物を見て回ると文士たちが、互いに行き来し、互いに影響し合い親交を保ったことに驚かされる。

今回の「あの頃、馬込は笑いに充ちていた」というタイトルも川端康成のブースで初めてこれだと分かった。川端康成はここでの生活を「馬込時代は兎に角、賑やかで楽しかった」と述懐しているのだ。

何人かの文士を紹介しよう。

まず、尾崎士郎だ。昭和11年に朝日新聞夕刊に「空想部落」を掲載しているが文士村がモデルだという。尾崎士郎は相撲が好きだったようで大森相撲協会所属で、自分の四股名は「夕凪」という。25年には横綱審議委員もやった。

作品には「人生劇場」「京浜国道」などあり、32年に朝日新聞に掲載されたが挿絵は当時の生活がよく分かる。森が崎では田んぼの中の道を人力車で走っている絵、蚊帳の中での就寝、町の様子など当時を忍ぶことが出来る。

宇野千代さんは、馬込のモダンガールだったようだ。昭和3年には馬込でダンスがさかんになり参加したようだ。作品には「おはん」等が展示されていた。
吉田甲子太郎は文士村の村長だった。1500坪もあるうっそうと茂った広大な邸宅に住んでいたが、玄関も鍵をかけず皆が「吉田いるか」と自由に入ってくるので仕事が出来ないとこぼしていたそうだ。2628年にかけては山本有三と小学校から中学校の「国語」の教科書も編纂したという。

室生犀星もダンスを体験、住んでいた谷中は沼地で湿気が多く風邪気味で夜は咳が出ると言うことで転居した。

佐藤惣之助は、家庭内がうまく行かず、広津和郎の邸宅に居候し、大森海岸でセイゴやボラの釣り三昧の生活を送ったそうだ。

当時の様子が目に浮かぶようだ。

石坂洋次郎は、学生結婚らしい。処女作の「海を見に行く」を書き上げ、原稿を託した先輩が忘れて埋まっていたが、後で「三田文学」に掲載され喜んだという。昭和8年に「若い人」をだし三田文学賞を受賞、「百万人の作家」として流行作家の道を選んだ。昭和22年には「青い山脈」「陽の当たる坂道」を出版、映画化は80本に上るという。

次はノーベル賞作家の川端康成だ。

川端が「馬込時代は兎に角賑やかでおもしろかった」というのだ。「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」で始まる「雪国」は有名だ。15年に「伊豆の踊子」を書いた。英文科から国文科に移り、卒後文化学院文学部の教師になった。

最近新聞で結婚するはずだった松村秀子との関係が存在していた手紙で分かったとニュースになったばかりだ。

川端の生活は夜中中電気が付き、出かけたりしたので得体の知れない男と言われたが、おかげで近所で「こそ泥」被害がなくなり感謝されたとも言う。

良く、宇野千代と方々へ行くので恋人と間違えられたらしい。

作詞家の藤浦洸が気になった。NHKの「20の扉」で回答者の常連だったのだ。私の故郷でもある岡山県井原市の私立興譲館中学(当時)に在籍したこともあるが、同志社大から慶応大の仏文科を卒業した。

「物を見る目が贅沢」と言われ、靴はイタリア製だ。おもしろいことに貧乏ゆすりが癖でこれが空気感染し、他の文士もつられて貧乏揺すりになったそうだ。「別れのブルース」「一杯のコーヒーから」「水色のワルツ」から[ラジオ体操の歌]までつくった売れっ子作詞家だった。

名前を聴けば直ぐ浮かぶ有名文士が互いに親交を保った馬込文士村だったのだ。他人の家でも何食わぬ顔で入っていき、それを又許す良い時代だったのだ。

今、生活から笑いがなくなってきた。日曜日の日テレの笑点が唯一の笑いの場になっていないか。視聴率ランキングで必ず20位以内に入ることを考えるとそんな気がする。

良い友達と影響を与え合うことの大事さが分かったような気がした。

特別展 馬込文士村―あの頃、馬込は笑いに充ちていた
開催期間 平成2696日~1019
時間 午前9時~午後5
入館料 無料
場所 大田区立郷土博物館 03-3777-1070

〒143-0025 東京都大田区南馬込5-11-13 

馬込文士村散策案内板
都営地下鉄浅草線・西馬込駅

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