2014年10月21日火曜日

アベノミクスの欺瞞(2):伊東光晴先生の「事実の裏付けのない経済政策」という批判に同感だ

伊東光晴先生の「アベノミクス批判 四本の矢を折る」(岩波書店2014.10.6)で安倍総理のアベノミクスは事実の裏付けのない経済政策で政権の都合の良い方向に経済の評価をしていると言う見方に大賛成だ。「チョットおかしいのではないか」と思っていたことがこの本ではっきりしてきた。

安倍総理が自民党総裁に返り咲いた時、野田政権と違ってインフレターゲット設定、強力な金融政策を目指すと宣言し、市場はその期待感から円高から円安、株安から株高基調へ展開、安倍総理の放ったアベノミクスの第一の矢の効果が出て来たと政権、メデイアは評価する。

しかし、伊東先生は株価の上昇は政策決定前、黒田総裁が就任する遙か前、衆院解散以前に海外投資家の買い増しが始まり株価の上昇は起こっていたという(同上)。私もこのことは経済誌などで経済学者が指摘していたのを覚えている。でもメデイアは大きく扱っていない。

そして円安は、為替介入が行われた結果だという(同上)。私は為替介入は国際的に為替安競争をしないという申し合わせもあり、監視されていて容易には出来ないと思っていたが、民主党政権下でも頻繁に行われていたというのだ。

だから円安、株高を何も安倍にミクスの効果とは言えないのだ。日銀の量的・質的金融緩和は株高、円安に何の関係もないのだ。

経済成長路線の財政政策である「第2の矢」も「国土強靭化政策」を中心とする公共投資が主になる。10年間で200兆円というと年間20兆円となるが2013年度、2014年度の予算を見ても20兆円が入る余地はない。財政収入、国債累積から考えて予算化できないのだ(同上)。

国土交通省の予算でも50%が維持管理、更新費で新規投資などは考えられない状況なのだ。近く起きることは分かっている南海トラフ巨大地震、首都直下地震への対策が要求されるが予算は心もとない。

「第3の矢」は経済成長戦略で既得権益を打破し構造改革路線を進めなければならないが既得権益者、族議員の抵抗は強い。お題目は残っても内容が伴わないのだ。

具体化の姿が見えないと言い何よりも安倍総理の現状認識が間違っていると指摘する(同上)。

日本経済にとって今一番大事なのは「財政問題」と「労働市場の改革」だが、先進国の中でも最悪の財政赤字を抱えながら先送りし、加えて若者から人間的生き方を奪いかねない労働市場を改革しようとする政治が欠けているという(同上)。

同感だ、日本の良き習慣である労働環境を破壊してまで進めようとする労働者いじめの政策は、人口減と相まって次の良き労働力の再生産に支障を来し、そのツケは必ず企業に回ってくる。若者が結婚し子作りできるのに十分な収入、正規雇用を確保する対策を立てなければならないのではないか。

更に重要なことは政権や日銀の推進する経済政策は実証に欠ける理論だという(同上)。

日銀は2%物価上昇目標に向け異次元の量的緩和で市場に大量の通貨を供給すると物価が将来上がるだろうと人々は考える。「予想インフレ率の上昇」と言うらしい。すると「予想実質金利」は下がる。実質金利が下がると設備投資が増加し景気が浮揚すると言う考えがあるようだ。

しかし、供給過剰の社会で物価が上がることはないという。

利子率が下がると投資が増えるかどうかを現実に照らして真であるかどうかを検証したオックスフォード調査によると、長期利子率が低下しても投資に直接影響はないと言う結果なのだ。

事実の検証に基づかない政策をあたかも経済政策として発表し、それにより成果が出ているという経済指標を見せびらかすのは欺瞞である。

伊東先生は、アベノミクスの3本の矢は折れたという。しかし、政権は成果を出していると強弁するのだ。

いつまでそう言い張るのか。それがはっきりするのが消費税増税10%へ向けての安倍総理の決断だ。

万一、延期でもすると野党から「アベノミクスは失敗」と攻められる可能性がある。それを避けるために10%増税へ強行すると日本経済は計り知れないリスクを負うことになるが、10%への増税を先送りしたときのリスクに比べると問題ないという考えがある。

G20ではユーロ圏のデフレが懸念されているが、麻生財務相は「日本は財政政策と成長戦略のアベノミクスで脱デフレを目指している」という意味の発言をしていた。相反する政策を進めようとしているのだ。しかしどの道も実現性は乏しい。財政再建には消費税増税しかないのが現状だ。

規制緩和が作り出した現在の日本社会は、あってはならない社会であり、これをただそうとしない政治家がいないのは許しがたいともいう(同上)。全く同感だ。

事実に基づかない経済政策であるアベノミクスは、「期待感」を煽るだけで政権が言うほど成果のでる経済政策ではないのだ。誤魔化されないよう目を覚まさなければならない。


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