2014年6月21日土曜日

官営・富岡製糸場、世界遺産登録へ:ブームは所詮ブーム、過大な期待は禁物だ

世界遺産に登録された官営・富岡製糸場
21日午後5時頃、テレビニュースでカタール・ドーハで開かれていた国連教育科学文化機構が「富岡製糸場と絹産業遺跡群」を世界遺産に登録したと報じた。地元、群馬県、富岡市は歓喜状態だがブームは所詮ブームだ。水を差すようだが過大な期待での地域開発は控えるべきではないか。

もう10年位前だろうか。群馬県安中市に住んでいたので、まだ富岡製糸場が片倉工業の所有であった時に見学したのが最初だった。商店街を抜け右折すると正面に教科書でおなじみの富岡製糸場の建物が見える。

正門を入ると、「御用の方は事務所へ」と看板がある。入って「見学したい」というと見学申込書を渡され、民間会社から移管されていないので撮影禁止、禁煙、指定外立ち入り禁止の注意事項を言われた。

木骨レンが作り
2009年10月撮影
茶色の煉瓦造りの倉庫は木骨煉瓦造り、漆喰は近くの青倉で取れる石灰を使っている。その美しさは際立っている。建築物に興味がある者にとってはワクワクする建造物だ。倉庫、繊維工場、女子寮、ブリューナ館、診療所、会議室、事務所、住居などが残っている。会議室はテレビ映画の撮影にも使われた。確か、「忠犬ハチ公」の物語で東京帝国大学の農学部の設定で教授を松方さんが演じていた。会議中に倒れる場面だったと思う。

工場建設に当たってはフランス人のポール・ブリューナが全国を調査して回った結果、繭、水、燃料の確保の面から富岡に決定したという。

世界遺産に登録しようという動きが出て敷地1万7000坪の10~20億円の土地代を国が8割、県が1割補助して市が購入、2010年の登録を目指すと言っていたが予定より4年遅れの登録になった。

それから8回目の見学の頃、見学も有料化され500円払った。ガイドさんの説明も聞くことが出来る。見学者も11万人を越えるようになったという。見学者数が事務所前に表示されていた。

清掃担当の女性に「見学者が増えましたね」と聞くと、「こんなもんではない。土、日はこの通路のあちこちでグループがごった返すほどで、特に登録リスト入りから増えた」という。

ところが「富岡製糸場と絹産業遺産群」は群馬県全域に関連施設が散らばっているが、それぞれの地元自治体で世界遺産へ温度差を感じた。

25km離れた新町に、この富岡製糸場と切っても切れない施設に富岡製糸場から出た「くず糸」を再生する「旧新町くず糸紡績所」があり、一度見学しようと訪問したが、民間会社の私有財産で団体しか受け付けていないと断られた。高崎市も推薦を見送ったという(今どうなっているかは分からない)。

安中市にある碓氷社本社事務所(県指定文化財)も貴重な建物であるが当時は推薦を見送ったと言われている。

しかし、繭とか燃料などの流通部門の鉄道施設は推薦を受けており「めがね橋」など観光に一役買っている。

赤岩養蚕農家群
2007年10月撮影
一方で熱心に取り組んでいるところもある。富岡から約60km離れた群馬県六合村の赤岩地区養蚕農家群だ。白砂川の向こう岸に2~3階建ての養蚕農家が山の斜面にへばり付くように建っている。一度訪れた事がある。年配の男性が近づいてきたので「写真を撮るにはどこが良いか」と聞くと「この辺から向こうを狙って撮ったら」と教えてくれた。

聞くとこの人はボランテイア・ガイドだという。昔は4階建てのものもあったらしい。養蚕農家は出梁、出桁が特徴で全て養蚕のための工夫だという。「私たち人間は通路で寝た」と笑って教えてくれた。

桐生市は絹織物が盛んだが50km離れている。

結構関連施設が離れて存在するので、全部を見るわけにはいかない。富岡製糸場だけではチョットもの足らない感じだ。

近くに磯部温泉があるが、今お客が減っていると聞いたことがある。「富岡製糸場が登録されると宿泊者も増えるのではないか」と聞くと、「あれは遊ぶところではない」という返事が返ってきた。

富岡市も大きな期待を持って周辺の開発をしない方が良いのではないか。ブームは所詮ブームだ。しばらくは盛況だろうが数年すると見学者も減ってくる。登録前の見学者数まで落とさないように努力することだ。これを履歴効果というらしい。

島根県の石見銀山は平成19年に登録されたが、それまでは30万人ぐらいの見学者だった。それが登録後に70~80万人に上り交通渋滞とか、地元の人の生活に支障を来す結果になったらしいが、その後減少し40万人ぐらいに落ちたらしい。登録前の30万人との差が「履歴効果」と言うらしい。ブームは必ず去るので、「履歴効果」を如何に確保するかが問題なのだ(地域経済ラボラトリ「世界遺産登録 どれだけ効果があるか」2013.6.29)。

富岡も製糸場周辺は古い家屋が密集し、道路も狭い。駐車場の確保も大変だ。合わせて観光施設をどうするかも問題だろう。維持管理費を入れれば見学料ではまかなえず財政を圧迫することも考えなければならないだろう。

兎に角、ブームに踊らされず、静かに殖産興業を掲げた政府の製糸産業振興のために建設した官営・富岡製糸場を見学することだ。

倉庫
「後記]

「富岡製糸場と絹産業遺産群」としては、富岡製糸場の他に伊勢崎市の「田島弥平旧宅」、藤岡市の「高山社跡」、下仁田の「荒船風穴」の4施設で遺産群を構成している。

                     (2014.6.22)



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