2019年7月18日木曜日

今日の新聞を読んで(277):リーマンショック後、日銀金融政策に白川元総裁の苦悩が


2009年1~6月の金融政策決定会合での議事録が公開された。2008年9月のリーマンショック後、国内経済の急激な悪化に白川元日銀総裁が悩む姿が浮き彫りになった。当時日銀は「小出し」の緩和策で政府、市場から批判が集中していたが、白川元総裁は金融政策は経済政策、日銀のバランスシート、通貨の信認などで長期の国債購入に反対していた。

日本経済を立て直すと胸を張って主張した安倍総理のアベノミクスで円安、株高基調になったが、「2年で2%」の物価目標は達成できず異次元の金融緩和を継続中だが、米中経済摩擦勃興で世界経済は下降リスク局面になり、利上げ中止、利下げ、さらには緩和策へ逆行する動きになってきた。

1929年の世界大恐慌の再来かと思われたが、連続倒産は起こらずV字回復した要因は「大幅な金融緩和」、ゼロ金利政策が功を奏したと思われているが、主流派経済学者は非伝統的な金融緩和は裏付けのない理論であり、成果は期待できないと反論していた(「アベノミクス批判 伊藤光晴 岩波書店 2014」。

今から思えばリフレ派経済学者に頼らず「市場の見えざる手」に任せておいた方が世界経済にとっては良かったのではないか。市場の期待感をあおるのではなく、市場にすべての判断を委ねればよかったのだ。

新聞報道などから当時の状況を時系列でみてみた。

  年  月
経済状況など
白川元総裁の考え
2008年9月
リーマンショック
円高 株安


2008年10~12月期
GDP 年率換算で12.7%の大幅減
追加緩和の期待強まる
言葉を失うような悪い数字
2009年1月
社債、CP買い入れ3兆円政策金利0.1%
従来の緩和的金融政策では効果が発揮できず
次の一手に思案
中央銀行の独立性がそがれていく
2009年3月
国債買い入れ増額
財政ファイナンス?
通貨に対する信認が崩れ非常に悪影響が出る
2009年末
社債、CP買い入れ一時ストップ

2009年
再び円高、ドル安

2009年12月
追加の金融緩和

2010年10月
包括的金融緩和策復活

2012年11月
民主党野田総理解散総選挙へ
民主党政権で為替介入?

欧米の投資ファンドが行動起こす

2012年12月
自民党政権交代、安倍政権

2013年3月
日銀総裁に黒田さん

2013年8月
アベノミクス「第一の矢」異次元の金融緩和で期待感煽る
「2年で2%」物価目標


時系列でみると、白川日銀総裁は学者らしく、金融政策は経済政策、岩田副総裁が言っていた期待感をあおる「おまじない」ではないのだ。日銀のバランスシート、通貨に信認にも思いを巡らせ慎重な金融政策を遂行していたはずだ。

白川総裁の危惧した状況は今後日本経済を襲ってくるだろう。

ところでリフレ派の異次元の金融緩和に真っ向から批判している主流派経済学者がいる。伊藤光晴京大名誉教授だ。

伊藤先生は日本経済が円高→円安、株安→株高に基調転換した経緯を詳細に調査した結果、アベノミクスの「異次元の金融緩和」の成果ではないことを突き止めている。

円安では2012年11月ユーロ資金は円買いで円高、1ユーロ100円、円為替79円台だったが2013年4月には1ユーロ130円、円為替も99円台、それに為替介入も加わった。株価では2012年11月8661円台が2013年5月には14180円台で金融政策決定会合の前からすでに上昇していたのだ。

更に、異次元の金融緩和はエビデンスのない理論で成果は初めから期待できないものだという。大量の通貨を供給→物価が上がる(予想インフレ率の上昇)→予想実質金利下がる→景気浮揚のストーリーを描いているのだろうが、オックスフォード大の調査では長期金利が低下しても投資には影響がないという。経済企画庁の企業動向調査でも同じ結果が得られている。

テレビのインタビューで企業の経営者が、儲かるものがあれば借金してでも投資すると言っていた。今は投資する魅力のあるものが見つからないのだと言った。

リフレ派経済の旗振りだったエール大名誉教授の浜田先生も最近「雇用が改善しているのだからいいだろう」と言いだした。2%物価目標をあきらめたのか。

今は、いろんなセーフテイ―ネットが張られ世界的な景気下降局面でも大きな影響がでないように政策で工夫されている。1929年のような大恐慌はないだろう。

市場のことは市場に任せたらどうか。「市場の見えざる手」が働き正常化へ向かう道もある。政治が介入するといろんな障害が出て正常化への道が遠くならないか。

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2019.7.12掲載
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